『剣客商売』に学ぶ初めての相手への挨拶の仕方。 人の親を「ばあさん」呼ばわりする営業

[第311回]営業と会社の話(72)
【1】 『剣客商売』に学ぶ 初めて会う相手、初めて電話する相手への挨拶の仕方。
   初めて会う相手に挨拶をする場合、最初に何と言うべきだろうか。 初めて電話する相手、初めて電話する会社に、最初にどう挨拶するべきだろうか。
   今となっては、25年以上前のこと。 最初に「正社員型」で勤めた会社でのことだ。 ≪最初に「正社員型」で勤めた会社≫というのは、どういうことかというと、大学4年を2回やったもので、かつ、最初の4年の時、来てくださいと言ってもらった会社から、卒業できなくても来てもらっていいと言ってもらい、週に2コマだけ、会社を抜けて大学の講義に行かせてもらいながら、給与はアルバイトの払い方だが正社員と同じように入社式に出て正社員と同じように勤務した会社があり、それが1社目で、その年に、就職活動をやり直させてもらい、採用してもらって入社した会社が2社目で、2社目が卒業後に最初に勤めた会社であるが、「入社式」に出て「正社員」と同じように勤務し始めた会社としては、それより前にもう1社あったということなのだ。

   コンピュータ関連のT社の人事総務部長をしていたKさんが、会社に、会社で何かを使ってもらおうとしての電話、あるいは、従業員に何かを勧誘させてもらいたいということで、初めて電話をかけてくる人があった際、「いつもお世話になっております。・・・」と相手が話し始めると、「え? 何かお世話いたしましたか。 私、お話しするの、初めてだと思いますが、何かお世話いたしましたか。」と、しばしば、言っていた。 時には、「何もお世話していないと思いますよ。やめてください。気持ちの悪い」と言うこともあった。
   私たち周囲にいる入社間もない従業員は、それを聞いて、笑ったりしていたのだが、Kさんが言うには、「初めて電話する相手に、『いつもお世話になっております』などと言うバカがあるか。 初めて電話する相手には『初めてお電話させていただきます』だ。 こういう口のきき方のわかってないヤツにはわからせてやらないといけない。」と言った。 そうか、と思ったのだが、実際、初めて電話する相手にでも、「いつも、お世話になっております」という人間はいる。 しかし、言われてみれば、初めて電話する相手に「いつもお世話になっております」と言うのはおかしい。
   どこでであったか、初めて入った食堂で、レジでカネを払う時、「毎度、ありがとうございます」と言われ、このにいちゃん、誰にでも同じこと言ってるな、と思い、あまりいい印象を受けなかったことがある。 逆に、3回目くらいの店で、「毎度、どうもありがとうございます」と、最初に行った時には言われなかったのを、言われた時、この人、覚えてくれていたんだ、と思ってうれしく、また、人の顔を覚えた上で、そういう挨拶をする人というのに、その対応の仕方がうれしかったことがある。
   それから考えれば、些細なことでも世話になることがあった相手、もしくは、お互い様、お互いに世話し合っている相手であっても、「いつもお世話になっております」というのは挨拶としていいが、初めて電話する相手に、「いつもお世話になっております」と言う人というのは、言われた側からすると、この人は誰にでもそう言う人なんだな、という印象を受ける。 だから、そのT社の人事総務部長だったKさんの言うことは正しいのだ。 初めて電話する相手に話す挨拶は、「いつもお世話になっております」ではなく、「初めてお電話させていただきます」である。 私はそれ以来、初めて電話する相手には「初めてお電話させていただきます」と挨拶してきた。

   池波正太郎の小説に『剣客商売』というものがある。 それを漫画にしたものが、大島やすいち の画によるものと さいとう たかを の画によるものの2つがある。 その 大島やすいち によるもので、『コミック乱ツインズ戦国武将列伝12月号増刊 剣客商売[悪い虫]』(2014.11.10.リイド社)に所収の「東海道・見附宿」という題の話がある。
  無外流の達人・秋山小兵衛の息子・大二郎が構える道場に、松戸の小間物屋・平吉と名のる男が訪ねてくる。 平吉が東海道の見附の旅籠・なべ屋に泊まった時、おさき という仲居が、平吉に、秋山大二郎に手紙を渡してほしいと頼む。 飛脚に頼めばいいのと違うのかと言う平吉に、そういかないわけがあると言う。 数年前、剣術修行のため、諸国をまわった大二郎が東海道を歩んだ時、遠州・浜松に、浅田忠蔵が構えていた道場に立ち寄ったことがあった。 一手指南を求めて対戦すると、大二郎の2勝1敗。 その後、3か月ほど道場に滞在した。浅田忠蔵は門人から謝礼を取らず、百姓や町人の門人は食べrものや酒を運んできた。浜松藩士の門人もいた。 平吉が秋山大二郎に渡すように頼まれたのは、浅田忠蔵から「切羽つまって 身うごきもならず。 思いあまって 御助成を頼む。 ・・・・」という手紙だった。 見附の宿・なべ屋に泊まり、前に泊まった時に親切にしてもらったとして おさきを呼び、話を聞くと、病体の浅田忠蔵が酒問屋・玉屋に監禁されているという。 浅田忠蔵は、玉屋の長男だったが、子供の頃から剣術が好きで、とうとう玉屋の後継ぎを弟に譲って、自分は諸国をめぐり修行をして浜松で道場を構えるようになった。 ところが、弟の弥次郎が10年ほど前に亡くなり、子がなかったので、叔父が後を継いだ。 忠蔵は、今さら酒問屋になれないと叔父が後を継いだらいいと言った。 しかし、弟の弥次郎が死んだのは、妻に先立たれ、落胆し病床についたところを、玉屋の主になりたい叔父に殺されたのだった。 それを目撃していた下男の伊兵衛は、恐ろしさから10年口をつぐんでいたが、耐え切れなくなり、忠蔵にそれを話に行く。忠蔵は怒り、玉屋に乗り込むが、面談しているうちに中風の発作がおこり半身不随になり、忠蔵は土蔵に監禁されることになる。 その忠蔵の世話を受け持ったのが なべ屋の仲居・おさき の父・太作だった。口がきけなくなった忠蔵は、いろは四十七文字が書かれた紙を指示して太作に書き取らせ、その手紙をおさき が信頼できそうな旅人を選び、松戸の平吉に頼んで秋山大二郎に届けたというものだった。 大二郎は、元・忠蔵の門人で頼りになりそうな者を集め、玉屋に救出に向かう。 この「松戸の小間物商人・平吉が、雨の夜、秋山大二郎を訪ね方が↓
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「こちらは秋山大治郎さんのお宅でしょうかね?」
 そして、↓のように名のる。
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  「はじめてお目にかかります。 私は 下総の松戸に住んでおります小間物屋の平吉 と申します。」 

   T社の人事総務部長Kさんが言っていた、 初めて電話をする相手には、 「初めてお電話させていただきます。 ◇◇の○○と申します。」 と名のるものだ、  というのと同様に、初めて訪ねて会った相手には、「初めてお目にかかります。 私は◇◇の○○と申します。」と名のっている。 なるほど。 Kさんはもっともなことを言っていたのだ。
   [第188回]《業界内《不動産屋の電話のかけ方》、及び、「不動産屋」の電話のかけ方vs建築屋の電話のかけ方》https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201307article_1.html の【2】[2] でも述べたが、2011年(平成23年)のこと、千葉市中央区鵜の森町 の 工務店 新華ハウジング有限会社(不動産業としては、ビルダーズジャパン株式会社)に、社長・長○川 S二(当時、40代前半。男)の妻・◇華(当時、40代前半。女。)の友人だということで縁故入社した T口 恵(当時、30代前半。女。)が、初めて電話する不動産屋に、電話で、「いつもお世話になっております。」と口にしていたので、この人は、電話のかけ方を知らない人だな、と思って聞いていた。 「不動産屋レベル」ならその程度でもいいのかもしれないが、「グレードの高い営業」としてのレベルなら、そのかけ方は適切とは言えない。 私は、本当なら教えてあげるのが親切というものだろうと思っていたが、T口は素直さがなく、言ってあげてもきく人ではないだろうと思ったので言わなかった。
   徳島市の株式会社フィットhttp://fit-group.jp/ は、「フィットの言うことだけきいてやってください。決して自分で考えたり、他から言われたことを聞いたりしないでください」というのが「フィットのやり方」だとして、教えているようだが、そういう傲慢な認識では、成功しないと思う。 まず「フィットのやり方」があるのではない。 目の前の顧客が存在し、「どうすれば売れるか」という姿勢があるのだ。 「どうすれば売れるか」よりも「フィットのやり方」が優先するようでは、本末転倒だ。  もし、「いつもお世話になっております」と、初めて電話する相手に言うのが「フィットのやり方」だというなら、「フィットのやり方」が間違っている。 初めて電話する相手に対する挨拶の仕方は、「初めてお電話させていだだきます」である。



【2】 顧客に「息子さん」呼ばわりする営業
   何十年も前のことだが、自宅を売却して別の場所に買い替えようか思案していたことがあって、大阪府池田市にあった 三井信託銀行の池田支店の支店長と行員に父が家に来てもらったことがあった。 その時、同席するように言われて、私は一緒に話を聞いたのだが、その際、慶應の経済学部卒だという支店長は、私に 「御子息様」  と言ったのだ。
   「御子息様」という言い方は、営業用語である。 大学を卒業して、住宅建築請負業の小堀住研に勤めて、最初の新卒社員の研修で聞き、及び、会社が作成した営業用の「営業トークマニュアル」に、「御子息様」という言葉が出ていたのを見て、「御子息様」という言葉は、かなり、不自然な言葉のような気がした。 それまで、日常、使うことがあまりなかった言葉だった。 しかし、最初は抵抗を感じたものの、使っているうちに、営業の仕事をする者が、親子で住宅を考えている方の子息に話す際には、「息子さ~ん」と言うべきではなく、「御子息様」と言うのが正しい。 但し、ある程度、親しくなれば、「○○さん」と名前を読んでも良い。 そういう際に、「御子息様」という表現が自然と出るのが営業の仕事をある程度以上の期間、やってきた人間で、「御子息様」という言葉が出ず、失礼にも「息子さ~ん」と客に向かって言うのは、営業の仕事を十分な期間やってきたとは言えない人間だろう。 三井銀行の池田支店の支店長は、営業の仕事をやってきた人だったから、自然と「御子息様」という言葉が口に出たのだと、自分が営業の仕事をやって思った。
   ごま書房から発行されている『マナー イズ マネー』という本は、三井物産人事部が編集した本だったはずだ。 三井信託の池田支店の支店長の話し方を思い出し、なるほど、さすが、三井さんだけある、と思ったのだ。
   ところが、三井中央信託銀行の千葉県の船橋市の支店の人間は、私に「息子さん」と言うのだ。 一度、「それは失礼ではありませんか」と言ったことがある。 すると、「それはどうも。 息子さんに大変を失礼いたしました。」と頭を下げてくれたのだが、失礼ではないかと言われたので、とりあえず、謝っておこうということだったようで、意味がわかっていなかったらしい。 私は、あんたに、「息子さん」と言われる筋合いはないよ、ということを言っているのだが、わからないらしかった。 「息子さん」という言い方は、営業と関係ない仕事、労務者か何かをやっている人なら許容されるだろうけれども、営業の仕事をしている人間が口にする言葉ではないと思う。 私は、三井信託さんなら、当然、「御子息様」という言葉を使うものだと思い込んでいたが、人による、支店によるようだった。



【3】 人の親を「ばあさん」呼ばわりする営業、それをとがめられても理解できない営業
  2001年だったと思う。 在来木造の一条工務店の栃木県佐野市の営業所(住宅展示場)にいた時のことだ。 事務所内で、私が母のことを「うちのばあさんが・・・」と話していたところ、一条工務店で私より古くから在籍している営業のT木Y夫(当時、50台。 男。)が、「○○くんのばあさんが・・」と言い出したので、相手にしなかった。 私が相手にしないと、さらに、「ちょっと。 ○○くんのばあさん・・・」と言うので、「はあ、 誰のことですか? いったい、誰のことを言っているのですか?」と言うと、「ばあさんだよ。 ○○くんのばあさん」と言うので、「うちの母のことを『ばあさん』と言っているのですか」と言って警告したが、そこまで言っても、一条工務店の「ベテラン」の営業・T木Y夫は、自分の言葉づかいが異常だということを理解することができないらしかった。
   私が自分jで自分の母親のことを「うちのおばあさん・・・・」「うちのばあさんが・・・」と言うのはかまわない。 「うちのバカ息子が・・・」と自分の息子のことを実際にバカ息子であるか否かにかかわらず言う人がある。 嫁さんのことを「うちの山の神が・・・」と言う人もある。 当人が言うのはかまわない。 しかし、言われた側が、他人の親や他人の息子や他人の妻を、「ばあさん」だの「バカ息子」だの「山の神」だのと言うものではない。 私が自分の母のことを「うちのばあさんが・・」と言っても、言われた人間はひとの母親のことは「○○さんのおかあさん」と言うものだ、というのは当然のことで、子供が間違って相手の言葉をそのまま自分も使ってしまったというのなら、今後、気をつけなさいというところだろうけれども、50台のおっさんが「○○くんのばあさん」などと口にしたので驚いた。 しかも、労務者・土工などの仕事をしている人なら「しかたがない」と我慢してあげるということもありうるかもしれないが、営業の仕事をしている人間、それも同社では相当の年数を経てきた人間が口にしたので、あきれた。 
   それで、そういう口のきき方に応じるわけにはいかないので返事をしなかったのだが、しつこいので、「誰のことを言っているのですか」と皮肉を言ったのだが、T木Y夫(営業本部長A野さんの佐野営業所における「草」)は、皮肉を言われたと気づくことすらもできなかったのだ。 そんな人間が一条工務店では営業をやっているのであった。
   客が自分の息子のことを「うちの息子が」と言っても営業は「御子息様」と言うもので、客が「うちのバカ息子が」と言ったからといって営業が「お宅のバカ息子が」と言うものではない。 私が自分の母のことを「うちのおばあさんが」と言うのは良いが、私が「うちのおばあさんが」と言ったからと言って、T木が「○○くんのばあさん」と言うのは社会人として非常識であり、その失礼を指摘されてもそれでも理解しないT木の態度は営業としてありえないもので、そんな人間を営業とは普通は言わない。
   私は、自分の母のことを、T木から「ばあさん」などと言われる筋合いはないし、私の母はT木から「ばあさん」呼ばわりされる筋合いはない。 この程度のこともわかっていない人間を「営業」とは言わないはずだが、一条工務店では言っている。 今、インターネットで検索してみると、「一条工務店の営業は、担当者によって差が大きい」と出てきたが、そうかもしれない。



   営業の仕事をある程度以上の期間、やってきた人間なら自然と口に出るが、そうでない人間なら、必ずしも自然とは口にでないという言葉があると思う。 そのひとつが、「御子息様(ごしそくさま)」であり、そして、初めて電話をかける相手に対しての、「初めてお電話させていただきます。・・・」という表現である。 初めて電話する相手に「いつもお世話になっております」ではなく「初めてお電話させていただきます」という言葉が出てくるかどうか、人さまの子に「息子さん」ではなく「御子息様(ごしそくさま)」という表現が自然と口に出るかどうか、これはその人が営業としてある程度以上の年数、仕事をしてきたかどうかを見る基準になると私は思っている。 人の親に向かって「ばあさん」呼ばわりは論外である。 
   新華ハウジング(有)で、縁故入社のT口の電話のかけ方を聞いて、 ≪「初めてお電話させていただきます」と言えない人 ≫なんだな、とわかった。  初めて電話する相手に「初めてかけさせていただきます」「初めてお電話させていただきます」と言い、ある程度、つきあってからは「いつもお世話になっております」と言う者と、初めてかける相手にでも「いつもお世話になっております」と言うものでは、前者の方が好感を持たれると思うが、それだけではなく、自分が言われる相手でない場合に横で聞いた時でも、初めて電話する相手には「初めてかけさせていただきます」と言い、ある程度つきあってからは「いつもお世話になっております」と言う人は、この人は、営業の仕事をある程度以上の期間やってきた人なんだな、という印象を与える。
   「初めてお電話させていただきます」と言えば、必ず契約とれるというものでもないし、人の親を「ばあさん」呼ばわりした者は絶対に契約とれないというものでもないが、やはり、初めて電話する相手には「初めてお電話させていただきます」「初めてかけさせていただきます」であって、「いつもお世話になっております」ではないはずであり、人の親に向かって「ばあさん」と言い、「誰のこと言ってるのですか」と軽蔑の気持をこめて警告されても、それでも、「『ばあさん』だよ、『ばあさん』」などと、いい歳になって言う男というのは、社会人としておかしいと思われてもしかたがないと思う。 ひとの親を侮辱するその発言、一般には、喧嘩売ってるのか?と評価される態度だと思うのだが、そういう言葉づかいをする人間は、その会社の職種が「営業」であっても、はたして、「営業」と言えるだろうか。


※ 『剣客商売』は、テレビでも、藤田まこと が秋山小兵衛を演じて放送されたようで、インターネットにもその動画がいくつか出ている。 もっとも、私は大島やすいち氏の劇画の方がいいが。 先に小説や劇画を読んでからテレビを見ると、登場人物のキャラクターと役者のキャラクターがなかなかしっくりしない場合が多いのだろう。 話の内容もかなり違う。
《YouTube―剣客商売/東海道見附宿》https://www.youtube.com/watch?v=0x6MyUDAtn8
《フジテレビ 剣客商売 第5話2003年2月25日放送 あらすじ 東海道見附宿》http://www.fujitv.co.jp/b_hp/kenkaku4/backnumber/303000003-5.html

    (2014.1.7.) 


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