「やったことない」ことはできるか?《A》―住宅建築業の営業(1)「負けパターン」の感知。

[第321回]会社と営業の話(76)
   「やったことないことはできるか?」 2011年、千葉市中央区鵜の森町 の新華ハウジング(有)[建設業]・ビルダーズジャパン(株)[不動産業]・ジャムズグローバルスクエア(株)[不明業]で、「工事責任者」を自称しながら、工事現場を見に行かない、そもそも、自動車の運転をしないので見に行けない奇妙な「工事責任者」で、ビルダーズジャパン(株)で「取締役」になっていたU草A二(当時、30代半ば)が「ぼく、営業やったことないですけど、営業できますから」と何度も執拗に大きな声で口にしていたので、この男、いったい、何だろうなと思ってきた。 実際に営業の仕事をしてきた者から見ると、どう見ても「営業できない要素」を多く持つ男が、なぜ、そのような奇妙な文句を何度も何度も口にするのか? そもそも、そういう発言は、実際に営業の仕事をやってきた人間に失礼ではないのか。そのあたりの感覚もない人間に「営業できる」か? ということになる。 実際に、「やったことない」ことができるか、具体的な例をあげて検討したい。


   2001年のこと。 在来木造の一条工務店の栃木県佐野市の営業所で、夜、客宅から展示場事務所に戻ると、前年に入社したK保に、栃木県南部の営業所長(役職名としては「副所長」)のK下が、かんかんに怒っていた。 入社して営業成績があがっていないK保の為、K保がなんとか折衝できる状態になった見込客に栃木県南部の「副所長」(実質、所長)のK下が同行して、なんとか契約にもっていってやろうとした。一条工務店は、その当時、在来木造として、栃木県南部では、住友林業・東日本ハウス・富士ハウスなどと競合になることが多く、地元の在来木造の建築会社と競合になることもあった。 その見込客は住友林業と競合になっていたらしく、最初にK下がK保に同行して客宅に行った後、「どうですか。契約になりそうですか」とK下に尋ねてみたところ、「苦しいな。 向こうのペースで進んでいる」という返答だった。
  私もそういうケースの経験はあった。競合相手のペースで進んでしまっているのなら、ともかく、なんとかして、最低でもそのペースを崩してやらないといけないが、どうするか。

  一条工務店の発祥地である静岡県西部や愛知県でのみ営業をしてきた人には、一条工務店は対住友林業では「『ごちそうさん』てなもんだ。簡単に契約とれる」とか無神経な口をきく人が少なからずいたが、それは、(1)家というものは(在来)木造で建てるもので、ムク材・国産材で建てるものだ、太い木を使って建てるものだという観念が相当に強い地域では構造材にムク材を使う一条工務店は構造材に集成材や輸入材を使用する住友林業に対して相当に強いということと、(2)ある程度以上の広範囲で施工している住宅建築会社では全国一律価格にしているところと県ごとか地域ごとに価格を変えている会社があり、一条工務店は県ごとに価格を変えていたのだが、その価格の設定のしかたが大学の経済学部や商学部で経済学を学んできた者から見れば無茶苦茶で、静岡県西部・愛知県には他の地域より格段と安い価格を設定していた為、クルマにたとえるなら、他の地域ならクラウンと競合でセドリックを売っているものを静岡県西部・愛知県ではカローラとの競合でカローラ価格のダンピングセドリックを売っているようなものだったのだ。 (3)他の地域の営業には「一条工務店はテレビ広告などは一切しないで品質で売っている会社です」と教えて、実際には、静岡県西部と愛知県のみ、ドカンドカンとテレビ広告をやっていたのだ。 そして、(4)「地元の会社」という「売り」もあった。  この(1)~(4)のうち、(4)は栃木県にも工場を持っていることから準地元のようなイメージもないではなかった。 問題は(1)と(2)で、特に(1)については、栃木県でも最北部になると福島県とあまり変わらず、家というものは在来木造で、ムク材・国産材で、太い木で・・という志向が強いのだが、南部では、ムク材・国産材に対する志向はそれほど強くなく、逆に、“住友信仰”のようなものがかなり強かった。 一条工務店の静岡県西部・愛知県でしか仕事をしたことのない「レジェンド」、自称「一条工務店の土台を築いてきた人たち」には「浜松の中のカエル」が多く、そのあたりを理解できない人が多く、かつ、経営者はそういう「浜松の中のカエル」が大好きだったが、静岡県西部・愛知県以外で自分自身が仕事をした人間は、それは違うとわかっていた。栃木県南部の「副所長」だったK下は浜松で入社した人だったが、他の地域でも仕事をしてきたので、そのあたりを私が指摘しても、「そうなんだよ」と私と同じことを感じ思ったことを言った。 K下の前に栃木県地域の所長だった I 十嵐もそのあたりは理解できていた。 東京・松戸、福島県いわきに勤務して、その後、栃木県佐野で勤務した私が、「東京では、営業の能力・努力が五分と五分なら一条と住友林業なら住友林業の方が圧倒的に強かったが、福島県では逆に一条の方が強かった。 このあたり(栃木県南部)はその中間ですが、都会ではないので、6対4くらいで一条の方が強いかと思ったら、そうじゃないですね。 むしろ、4対6くらいで住林の方が強いですね」と言ったところ、I 十嵐さんは「いや。 4対6じゃなく、3対7くらいで住林の方が強いのじゃないか」と言ったが、そんな感じだった。 I 十嵐さんは自分自身がその地域で営業をしてきたので、「浜松の中のカエル」さんとは違ってそういった感覚が身についていたのだ。  当時、栃木県南部では、このように、一条工務店にとっては住友林業は相当の強敵だった。
   その強敵と競合の見込客を新人のK保が相手にしていて、なんとか契約を取らせてあげたいと思った「副所長」のK下が同行したが、どうも、競合相手の方が先行して、相手のペースで進んでいるようだ、と感じたらしい。これは、そのまま行ったら、「負けパターン」である。 こういう時、「浜松流」の人は、「そんなもの、『一条はムクでしょ、住林は集成材でしょ』とでも言えば簡単に契約なんか取れる。ちょろいもんだ。なんで、契約とらんのだ。営業がクズだからだ。それ、言ってないだろ。 それ、言えばかんたん、簡単。」と決めつけるのだが、ダンピングとテレビ広告で営業やってる一条浜松流「静岡県西部・愛知県」営業のそういう発言は相当に失礼で、非「静岡県西部・愛知県」で仕事をやっている人間にとっては相当にむかつく文句である。 栃木県南部ですでに住友林業を本命として検討している人を相手にした場合においては、それはまったく通じない。 一条工務店が、腐り・白蟻対策として、1階構造材を真壁和室の役柱以外すべてACQ剤を加圧注入処理しているという「売り」も、住友林業信仰が強い人の場合、住林の営業が言う「あれは、木の繊維を殺している」とか「注入処理の木は健康に悪い」とか言ったゴタクが通じてしまう。 栃木県南部では「住友林業は絶対に嘘つかない」と奇妙な信仰を持っている人が多く、実際には室内化学汚染・シックハウス症候群の問題としては防腐防蟻剤では加圧注入処理のものではなく表面塗布処理のものの方が問題とされていたのであって住友林業の営業が言っている話は事実に反するものだったのだが、そのあたりを説明しようとしても「住友林業の人が教えてくれたんだ。 一条さんが使っているような加圧注入の木なんかで家建てたら健康に悪いって。 そういうことをきっちりと教えてくれる人のところに頼みたいと思うんだ。」とか言われてしまったりする。(私は本当に言われたことがある。) 「違いますよ。 それは・・」と説明しようとしても、「あなた、嘘ついちゃだめだよ。 住友が言ってんだよ。住友林業は絶対に間違ったことは言わないんだ。 私は嘘つく人間は嫌いなんだ」と、嘘つく人間を信頼してしまって本当のことを述べる人間を嘘つき呼ばわりするいるオヤジがけっこういたのだ。 栃木県南部には。(気分の悪い・・・) こういうオヤジは、もはや、信仰の域であって科学ではないので、論理的にわからせようと思っても難しい。

   そういうの、いったい、どうしたらいいのか。 ひとつの方法として・・・、誤解をおそれずに言うならば、「あきらめる」というものがある。 あきらめてどうするんだ?!? と思われるかもしれないが、実際のところ、プロ野球では3割打つバッターは一流打者と評価されるのだが、「3割バッター」と言えども、投手が投げるすべての球をヒット打っているわけではないのだ。 住宅の営業も、たとえ、全国1位の営業成績の営業でも展示場に来場するすべての人に契約してもらっているわけではないのだ。 それなら、こちらが本当のことを言って住友林業の営業が嘘ついているのに、「住友林業の人に教えてもらったんだ。住友林業は絶対に嘘つかない。住友林業は絶対に間違ったことはしない。」と信仰を持ち、「それは違いますよ」と教えてあげようとすると、「あんた、嘘ついちゃだめだよ。住友林業の人に聞いてわかってるんだ。 私はそういう嘘つくやつは大嫌いなんだ。」とか、なんなんだよ、このクソおやじは・・・て感じのおっさんは、勝手にしろ! てところで捨ててもいいのではないのか、そんなオヤジにかかわっているよりも、栃木県南部はそういう人の割合がけっこう大きいとはいえ、そんな人ばかりではないので、そうでない人を相手にして契約してもらうようにした方がいいのではないのか、という考え方はある。(実際には、「住友林業は絶対に嘘つかない」とかそういうことを言う見込客には、口に出して言わないけれども、住友林業関係の会社に勤めている人とかもいるのではないかと思う。)

   住友林業信仰が病的なおっさんは、治療してあげようと思っても、これは信仰の世界なので、相当に難しいのだが、そこまでの人でなくても、栃木県南部においては、一条工務店にとっては住友林業は強敵だったので、その対処法として、もうひとつ、「早い時期に相手を競合からはずしてしまう」というもの があった。 これは、簡単にいつでも誰にでも成功するわけでもないのだが、多くの見込客は、最初、ある程度以上の会社について展示場を見て回ったり住宅雑誌を見たりカタログを取り寄せたりして検討し、その中から2社か3社、真剣に考えてどちらかに決める、という行動を取る場合が多い。 住宅会社の営業の立場からすれば、予選と優勝決定戦の2回の選別があるようなものだ。 そこで。 直接対決で相性が良くない相手は予選で落ちてもらうようにして、直接対決の相手は比較的相性の良い相手と勝負できるように持っていくというものだ。 具体的に言えば、栃木県南部においては、一条工務店は東日本ハウスとかが相手の場合、直接対決では、営業の能力・努力が五分と五分なら一条の方が相性は良かったのだから、優勝決定戦に残る相手は住友林業以外になるように早い時期に意識してもっていくというものだ。 但し、これは理屈としてはあるのだが、常に成功するわけではない。

   それで。 優勝決定戦に強敵が出てこなければ、強敵は優勝することはない・・・・が、出てきやがった場合は、その相手に勝つ方法を考えないといけない。 相当に病的な住友林業教の信者は相手にしても「疲れるだけ」みたいなところがあるとしても、そこまでいかない人をどうするか、だ。 ひとつの方法として、「先行逃げ切り」がある。 相撲で、土俵中央で相撲取りが「がっぷり四つ」に組むと、その力士の特徴を知らない人は五分だと思いがちがだ、実際はそうではない。押し相撲の力士と四つ相撲の力士ががっぷり四つに組めば、四つ相撲の力士の方が有利だ。 今の理事長の北の湖が横綱で、間垣親方が大関・若三杉から横綱に昇進して二代目若乃花になった頃、北の湖と若三杉の対戦成績は5分よりも、むしろ、若三杉の方がリードしているくらいだった。 しかし、それなら、「がっぷり四つ」になった時に5分より若三杉が有利だったかというとそうではない。 若三杉は、四つ相撲の力士ではあるが、北の湖相手には「がっぷり四つ」にはなかなかならず、若三杉有利な姿勢で寄り切ることが多く、「がっぷり四つ」になった時には北の湖の方が成績は良かったようだ。 小堀住研にいた時、和風である程度以上の家を建てたいという見込客は住友林業と競合になることが多かったが、1990年前後、「住友林業の家」として駅などにポスターを出していた和風の家のイメージで住宅を検討した人が小堀住研も対象として考えた場合、小堀住研は「住友林業の家」を上回る「小堀ならではのデザイン」を提案することができたので、後から入り込んでも「がっぷり四つ」にまで組めば逆転できる可能性は十分にあった。 それに対して、一条工務店は対住友林業では、「がっぷり四つ」に組むと弱い。 これは、営業の努力でなんとかできるものもまったくないわけではないが、会社として組織としてやっているものに対して個人の努力・能力でなんとかしようとしても限界はある。 となると、作戦として、「がっぷり四つ」に組まないことだ。 小堀住研にいた時、和風が好みの見込客で住友林業と競合になった場合、「がっぷり四つ」に組んで逆転することはあったが、東京圏では住友林業の方が小堀住研より知名度が勝っていたので、住友林業に先行されてそのまま逃げ切られてしまったケースもあった。 2000年前後、栃木県南部では、在来木造で、和風でとなると、一条工務店と住友林業を検討する人が多かった。そういう人は、あらかじめ、どちらの会社も会社の名前くらいは知っている。 知名度でどちらが先行というものはない。 となると、営業の努力と工夫で先行するように持っていき、自社のペースで進めるのだ。 そして、住友林業も検討している人が相手にも話をしたいと言われた時には、「どうぞ、話をきいてください」と言いながら、相手を待つのではなく、どんどんと前に進めてしまうのだ。 そして、住友林業の営業がアピールしようとした時には、最初は一条と住林の2つで検討しようと考えていた人が、もうほとんど一条で建てるような雰囲気になっている・・というように持っていけば、住友林業の営業が図面を出したり見積を出したりする時には、「まあ、持ってくるというのだから、一応、聞くだけ聞こうか」くらいで、そのまま契約成就、こっちの勝ちともっていくというものだ。 これで契約にもっていこうとしたケースが私が佐野営業所にいた時、1件あったのだが、最初の最初は五分五分だったものを、「仮契約」の段階ではこちらが先に仮契約してもらい、後は、「普通のペース」で進めれば仮でない「契約」になり、着工→引き渡しと進んでめでたしめでたし・・となるはずだったのだが、新人の設計は、「急ぎだから他のより先にやって」と厚かましい営業に言われるとそちらを先にするようで、私の担当客は後回しにされ、通常では考えられないくらいかかり、その間に追い越されて、最後は、逆に住友林業に先行されて、「先行した方が勝ち」のパターンで契約を持って行かれてしまった。 この設計では取れない・・と嘆かわしかった。 一条工務店の「設計」というのは何のためにいるんだ? 私が「営業兼設計」で仕事をやれば、その見込客は契約とれた。 「この人は、住友林業と競合だけれども、うちの方が先行しているから、どんどん前に進めていって、うちで契約するものという感じに持っていこうと考えている、そういう作戦だから」と言っても、「わかりました」と口では言ってもちっともわかっていない「設計」。 これではなあ~あ・・・、この「設計」ではなあ~あ・・と思った。

   “一条浜松流本家家元”みたいな人は、「『一条はムクでしょ。住林は集成材でしょ』と言ってないだろ。それさえ言えば、ちょろいちょろい」とか人を馬鹿にしたことを言うのだが、それはその理屈というのか観念が通じる相手には通じるが、すでに通じないことが判明している相手に言ってもだめだ。 だめだというと浜松流総本家家元は怒るので、相手にしない方がいい。 で、方法としてだが、一条の「売り」は構造以外にもあるので、ムク材がいいという意識がない人には、むしろ、他の「売り」をぶつけた方がいい。 1990年頃までの小堀住研の和風と住友林業の和風では、小堀の和風の方が「斬新」で「都会的」、住友林業の和風の方が「いなかくさい」和風だったのだが、一条工務店と住友林業の和風の比較では、住林の方が「都会的」で一条の方が「地方好み」だったのだ。 それで、都市部で生まれ育った人間から見れば「いなかの家みたい」と見えるものが、正真正銘地方においては、それでも「大工さま」の家に比べれば「都会的」だったりしたのだ。 だから、一条浜松流総本家家元の人たち、「浜松の中のカエル」さんたちは、住友林業との競合で契約とれた場合、「一条はムクでしょ。住林は集成材でしょ」だけで契約とれたという信仰を持っていたが、実際はそうでもなく、多くの契約者から言われたのだが、「好みの問題」というのがあり、一条と住林では、地方に行くと一条の方が「好みに近い」人がけっこう多かったのだ。 そして、その好みというのは何かというとだが、実は、外観デザインだったり、内装だったりしているケースもあったのだ。 外観デザインは、たとえ、展示場が見込客の好みでなかったとしても、実際に建てる場合には好みに合わせて建てることができる場合もあるが、展示場のイメージは相当に強いし、その地域で建てられている建物を外観だけでも見てきた人は、自分の「好み」に近いものを普段から建てている所に頼みたいと考えがちだ。 それで、「普段、よく建てている建物」だが、一条工務店の建物と住友林業の建物では、和風のものでも「洋風」のものでも、一条の方が「重厚」なものが多く、住友林業の方が「軽快」なものが多いのだ。 これは気づいていない人がけっこう多いのだが、そうなのだ。 「重厚」「軽快」というのは肯定的な表現で述べたが、地方で「重厚」なものが好きな人から見ると、住友林業の「軽快」な外観は「プレハブみたい」とか「木造て感じがしない」とか言われ、都市部で「軽快」な外観が好みの人からは一条の「重厚」な外観は「どて~っとしてあかぬけない」とか「いなかくさい」とか言われるのだ。 で・・、どう思うかは人ぞれぞれなのだが、ムク材を好むか集成材を好むかという点での好みの分布と、「重厚」な外観を好むか「軽快」な外観を好むかの好み分布は必ずしも完全には一致していないのだ。 栃木県という県は東北ではなく関東だが関東地方では東北に近い位置にある県で、悪く言う人は「都会でないくせに都会ぶりたい人間の多い県」と言う県だ。 だから、都市部の好みと地方の好みが混在している県なのだ。 で、“一条浜松流総本家家元”は「浜松でいいものは日本中どこだっていいに決まってるんだ。」とか「東海を征する者は日本を征す」とかアホなことを言うが、「空の一部分の広さは浜松の広さと同じだ」と言うならそれは正しいが、「空の広さは浜松の広さと同じだ」というなら、それは違うのだ。 これを言うと一条の遠州人はかんかんに怒るが怒ったって空の広さは浜松の広さと同じではないのだ。 それで、だ。 一条の遠州人は、構造材にムク材を好むか集成材を好むかの「好み」の分布と「重厚」なデザインを好むか「軽快」なデザインを好むかの分布は一致していると信じているが、実はそうでもない。構造材にムク材を好むか集成材を好むかの「好み」の分布と「重厚」なデザインを好むか「軽快」なデザインを好むかの「好み」の分布は必ずしも一致はしていないのだ。 「一条はムク材でしょ」が通じなくても、実は栃木県のような「半地方」においては外観や内装のデザインにおいて、住林より一条の方が好みという人はいるのだ。 そういう相手には、アピールするには、構造よりも他の面をアピールした方が逆転の可能性はあるのだ。 これを言うと遠州人は怒ると思うけれども。 そのあたりから攻めるという手は可能性として考えられる。

   一条工務店は2001年頃から、ハイブリッド免震住宅というゴムとすべりの2つを組み合わせた免震住宅を始め、これは他社にないものなので、これを好む人には他社に強いだろうけれども、栃木県南部では営業上あまり役立たないばかりか、下手をするとマイナスになる。 なぜかというと、もともと、それほど金持ちが多い地域ではないからだ。かつ、地盤の弱い地域では免震住宅は無理なのだが、地盤の弱い地域もけっこう多い。 一度だけ、宇都宮の見込客を何軒か回ったことがあるが、年収のレベルが、人それぞれではあるが、全体として、宇都宮は県庁所在地だけあって佐野・栃木・足利近辺よりも全体的に見て年収が多い。 栃木県南部というのは、新幹線で小山から東京に通勤するような変則的な人は別として、全般的にそれほど年収は多くなく、一条工務店の建物の中では中から下のものを建てたいと思っても建てる予算を組めないケースはけっこう多かった。 そういう場所で、さらに構造部分に費用がかかる免震住宅を勧めるというのは、よそで建ててくださいと言っているのと変わらなくなってしまう。栃木県南部においては、多くのケースにおいて、これを出すと自爆だ。

   住友林業が本命の見込客で「対抗馬」として一条工務店を検討している人というのは、対抗馬の会社の営業としては、なんとかひっくり返したいと思うのだが、一条工務店は対住友林業では先行して逃げ切る場合はけっこう勝てるのだが、先行されているものをひっくり返すのはそう簡単ではない。 簡単でない理由のひとつとして、相手の営業が意図的に一条を競合に指定して、自社が提案したものと同じ内容で一条さんに図面と見積もりを作ってもらってください、と誘導している場合があり、実際は競合会社の営業が誘導しているのに、それに気づかず、その見込客の希望だと思って、言われるままのことをやると、それは住友林業の営業が組み立てた、相手方の「勝利へのストーリー」に協力させられて労力と時間を払わされただけ・・となることがある。 佐野営業所の新人で当時30代半ばだったK保がやっとつかんだ話ができる見込客のお宅に同行した「副所長」のK下に、私が「どうですか。契約になりそうですか」と言った時、K下が「厳しいな。」と言ったのは、話ができるとはいっても、競合相手のペースで進んでいて、一条工務店はあくまで比較対象としか見込客は考えておらず、それをひっくり返したいが、簡単ではない、ということのようだった。 可能性としてだが、住友林業の営業が自社の「勝利へのストーリー」として「一条さんに、うちと同じ内容で図面と見積もりを出してもらってください」と言い、見込客がそれに従った、という可能性がある。

   一条工務店で在籍後半に、「主任」になっていた人から、「住友林業は、1回目の訪問から設計が同行したり、所長が同行したりするらしいよ。 どうする?」と言われたことがあり、あんた、何言ってんの? あんた、「主任」でしょ。 「所長が同行するらしいよ」て、あんた、「同行」してもらう立場じゃないでしょ、あんた、同行してあげる方の立場でしょ、と思ったことがあった。 また、「設計が同行する」といっても、どんな「設計」か考えてみた方がいい。 結論として、一条工務店に在籍した後半においては、私は、「所長がなんじゃい」「設計がなんじゃい」と思っていた。 一条工務店で「所長」になっていたおっさん見てみい。 客の立場から見て、その大部分の人間、あんなの、いいか?よくないだろうが。 俺の方が上じゃい。 一条工務店の「設計」みてみい。 そんなにご立派なものか? そこの何とかいう会社、「設計」が図面を書いているところを、青竹手打ちラーメンの実演みたいに見せようとして、広縁にドラフター置いて「設計」が座っているが、ヤンキーみたいなにいちゃんやんけ。 そんな羽根付きクルマに乗ってるヤンキーが「設計士さまですぅ」と言って「同行」したからといって、それが何じゃい。 そもそも、一条工務店では五流大学建築学科卒のにいちゃんねえちゃんが「学校でてるから」とふんぞりかえっているが、「学校でてる」といっても、五流大学の建築学科でて自慢にしているヤツ、建築士もインテリアコーディネーターもキッチンスペシャリストも建築施工管理技士も宅建主任も通らんじゃないか。何ひとつ資格も取れないじゃないか。 『プロ野球暴れん坊列伝』(文春文庫)によると、かつて、プロ野球の張本は在日韓国人だということで、けっこう汚いヤジも受けたらしく、中には「チョーセン、帰れ」とか言うような文句まで言われたことがあったらしい。 張本はそういう文句を言われるたびにファイトを燃やし、「その相手に、また、ヒット打たれただろうが。 それ、また、打ってやった。 どうじゃ、ざまあみろ。」と思ってプレーした・・らしい。 私は一条工務店にいた時、張本のその気持ちと似たような気持ちになったことがある。 五流大学の建築学科卒だということで「学校でてるから」と主張する「設計」の人間を見て、「学校でてる」といっても、建築士も建築施工管理技士もインテリアコーディネーターもキッチンスペシャリストも宅建主任も通らんじゃないか。 俺は宅建主任も通ったぞ。俺はインテリアコーディネーターも通ったぞ。俺は2級建築施工管理技士も取得したぞ。 俺はキッチンスペシャリストも通ったぞ。 なんだ、「設計士さま」だ、「建築学科卒」だと言って、何ひとつ通らんじゃないか。 それが「設計士さま」か!?! と私は思い続けた。 他の会社の「設計」も、まったく同じというわけではないかもしれないが、大きく変わるわけではないと思うのだ。 だから、「設計がなんじゃい、所長がなんじゃい」と私は一条工務店の在籍後半は思っていた。 実際には、「なんじゃい、あんなもん」と思っても、競合ではその「あんなもん」にしてやられることもあるのだが、そうであっても、そういう意識の営業にとっては、会社としてバックアップの体制がある会社が競合であっても、「それがなんじゃい」と思ってやれるし、それほど大きくマイナスにはならない。 しかし、佐野営業所のK保さんのような、それまで関係する仕事についたこともなく営業の経験もない新人の場合は、競合他社は新人でも会社としてバックアップするのに対して、個人営業である一条では、K保さんは何か質問されても答えられないのではないか。 それがマイナスになることが考えられたが、そこで、「副所長」だったK下さんは、同行した上で、私が栃木県南部の「責任者」です、と名刺を出して挨拶をしたのだ。 それは、新人の頼りなさを補うという目的で、それは戦略として正しい。

   それで。 その時、佐野営業所のK保さんは、住友林業が本命だったらしい見込客から、住友林業が提案していた住友林業のタイプで「標準仕様」に含まれていたもの、何であったか忘れてしまったが、を標準仕様に含んでいるタイプで見積もりを出してくれと頼まれたらしいのだ。  これは、その見込客が自分で考えて言ったのではなく、住友林業が本命とはいえ、まだ、住友林業で契約のはんこをつくところまでは決心していない見込客に対して、住友林業の営業が誘導して言わせたものという可能性が十分に感じ取れるものだ。  ハウスメーカーが建てているものは、間取りは自由になりますよお~と言っているものでも、「標準仕様」が決まっていて、それに「オプション仕様」がいくつか設定されていて、「標準仕様」ですべて建てれば、坪単価は○○万円で、オプションを取り付ければ、それぞれ、○万円プラスですよお~・・というものが多い。 一条工務店でもそういうタイプをいくつか用意していて、標準坪単価が高いものは標準仕様に含まれているものが多く、標準坪単価が低いものは標準仕様に含まれているものは少ないか、グレードの低いものが標準仕様となっている。 住友林業でも同様だったようだ。 そこで、だ。 問題は、その会社では低いランクの商品でも、ある物についてはグレードの高いものを標準仕様に入れているというケースがあるのだ。 「こんなにすばらしいものが『標準仕様』なんですよ」とアピールするためでもあるのだが、それだけではなく、ガチンコの競合になった時に、「これが標準仕様になっているタイプの見積もりを出してもらってください。 絶対にうちより高いはずですから」ともっていって、競合相手は、相当に上のグレードのものの見積もりを出せば、あくまで、その物はその会社では低いグレードのものでも「標準仕様」になっているだけのことで全体が割安あるわけではないのだが、自社の方が相当に割安で良心的、相手はぼったくっている・・かのように見える時があるのだ。 で、住友林業の営業は、どうも、対一条工務店ではそれをけっこうやるようなのだ。 私は、その時、入社して在籍10年目で、過去にそういう目にあって来た経験からK下さんの話を聞いてわかった。 K下は私と同じ歳だったが一条工務店に関しては私の倍ほども在籍しており、栃木県の従業員では一番古い人間だったから、K下もまた、やられた経験があったはずだ。 だから、感じとったのだ。 相手の誘導のまま、その高いグレードのもので見積もりを出したらやられる。 競合相手はそれを待ってる。 それをそのまま出したら、この話はそこでおしまい、と。 
   それで。 K保さんは、その 本命・住友林業の見込客に、その見込客が言ったように、その何だったか希望する物が「標準仕様」となっている一条工務店では「中より上」くらいのグレードのタイプで見積を作って提出しようとしたが、「副所長」のK下さんは、それを出してはだめだと言い、一条工務店では最も安いグレードのもので見積を作っておくように指示をした。 住友林業が見積を出しているものと同程度のものといえば、これですよ、と言うために。 何だったか忘れたが、それを取り付けたいならば、オプションとしていくらプラスすればできますと口頭で言えばよい。 こちらのこのグレードのものでも住友林業さんが見積を出されているものよりも内容は上ですよ、とアピールすれば逆転の可能性は残っており、そこにかけようと考えたらしい。 その作戦はわかる。ある程度以上、同社で営業をやった者ならわかるはずだ。
   ところが。 見込客と約束の日、 K下が同行しようとして佐野営業所に来たところ、K保はK下の指示を無視して、見込客が言った(実質、住友林業の営業が言った)それを「標準仕様」としているタイプでの見積、一条工務店としては「中より上」のグレードのものの見積だけを作成していて、一条では最も安いグレードのものの見積は作成していなかった。 せっかく、俺が一緒に同行してなんとか逆転して契約にもっていってやろうと言って指示しているのに、どうして、俺の言うことをきかないんだ、どうしてそんな勝手なことするんだ! これでは話にならないじゃないか、どうしようもないじゃないか、とK下は怒っていたのだ。  私も、その話を聞いて、それではな・・と思った。 営業所長でも、新人の営業が成績が出なくても放置する人もいるが、K下はなんとか契約を取らせてあげようとしたのだ。 その点、良心的で親切なのだ。 そして、過去の経験から、相手のペースでそのまま相手の言う通りしたのではやられる、もっていかれると感じたから、それはだめだ、と指示したのだ。 なんで、指示をきかないのか。 ある程度以上のベテランが所長とは自分の意見が違うと別の方法を取るなら好きにすればいい。 しかし、入社してまだ1棟も契約もらえていない新人が、せっかく、所長が教えてくれているのに、なぜ、それを無視するのか・・・という問題とともに、もしも、「副所長」のK下が言う意味がわからず、見込客が、競合メーカーの営業から誘導されて言っているらしい内容の通りにやった方がいいと思ったのなら、それを口に出して質問するべきであり、質問せずに自分で勝手に判断して「副所長」が作成して用意しておけと指示したものを用意せずにおくとはもってのほかであろう。 もしも、その物を「標準仕様」に含んでいる一条としては「中より上」のグレードのものの見積も用意しておいた方がいいと思って、K下が指示した一条としてはもっとも安いグレードのものの見積を用意するとともに、「中より上」のグレードのものの見積も用意しておいたというのならわかる。 そうではなく、せっかく、一緒に同行して、K保の名前で契約をとってあげようとしているのに、指示したものを用意しないというのはどういうことなんだ、ということだが、もしも、「副所長」だったK下に話しにくいとでもいったことがあったのなら、それならそれで、私に話せば良かったはずだ。 「副所長のK下さんはこう言うのですが、私は~とした方がいいと思うんです」と私に話せば、私なら、「K保さん、それは、・・・・ということがあるんですよ」と、かんで含めるように説明してあげた。 それを、K保は「副所長」のK下の指示を無視しただけでなく、K下の指示が納得いかないならそれならそれで、「・・・・ということがあるので、K下さんの言うやり方では・・と思うんですよ」と私に相談してくれたならばK保さんにもわかるように私が説明してあげたのに、それもしなかった。 一条工務店という会社は、営業社員を次から次へと採用して次から次へとやめさせていく、その点で良心的でない会社で、K保も、最初に入社してきた時、こんな人、採用してもだめだろう、辞めさせるために採用するのかと思った。 まず、K保は頭が悪く、かつ、どんくさい。 入社の時点ですでに30代のなかばになっていて、それまでに営業の経験も住宅建築業の経験もなく、無理じゃないかという感じだったが、朝、一番先に出社して、ひとりでも掃除をして、他の営業に電話があるととって取次ぎ、他の営業の仕事も手伝い、他の営業に来客があるとお茶を入れて持っていくといったことを嫌がらずにやる人だったので、私もできることがあれば協力したいと思ったが、その見込客などについては、「副所長」のK下が一緒に行ってなんとかしようとしていたので、「副所長」が一緒にやっているものについては、口だしても「船頭多くして船山に登る」ことになってかえってよくないだろうからと思って黙っていたが、もしも、「副所長」が指示したことが納得いかず、かつ、それを「副所長」に言いにくかったのなら、それならそれで、私に言ってくれれば説明してあげたのに、それもしなかった。  それだけではない。 その日だったか翌日だったか、佐野営業所に在籍したベテランのT木に、「K下さんは、あんなことで怒るというのは、ちょと人間として問題がありますねえ」だったか何だったかそういうことまで言いだした。(それに同調したT木は在籍年数が長くても「ベテラン」と評価するに値しない。) おまえ、もう、勝手にしろ! と思った。 せっかく、人がなんとか契約とらせてあげようとして尽力しているのに、そういう態度をとるようなら、さっさと辞めてしまえ! という気持ちになった。 「さっさと辞めてしまえ」といっても、会社というところは、いったん、採用した人はそう簡単に辞めさせるべきではないし、父の勤め先だった会社の創業者の社長は、「中間管理職」が部下のことを「あのアホは、どうしようもありませんわ」とこぼすと、「 アホはアホなりに使えばいいがな。 アホを使うのがきみの仕事だろう」と言ったというのですが、しかし、それにしても、人が、せっかく、その人になんとか契約を取らせてあげようと思って指示しているのに、それを無視するだけでなく、その指示に疑問があったのならそれならそれで黙って無視するのではなく口にだして「私はこう思うのですが・・・」と言えば、言われた者は説明もするだろうし、「副所長」に言いにくければ、他の先輩社員に言えば、私なら噛んで含めるように説明してあげたのにそれもしないで無視して勝手なことをする、というのでは、どうしようもないわ、こんなヤツ・・という気持ちになった。

    それで。 佐野営業所の新人K保が、本命住友林業だった見込客が、何だったかを「標準仕様」に含んでいるタイプで見積を出してほしいと言った時、それは、その見込客の向こうに住友林業の営業がいて、その依頼は競合営業の誘導で出てきている可能性が考えられ、そのまま、その依頼に従ったのでは、競合会社に持って行かれる可能性が高い。 そのまま言う通りにするわけにはいかない、とK下や私が気づくことができたのは、なぜか?  答えははっきりしている。 過去にやられたことがあるからだ。 相当に努力もしてその見込客のために労力を払ってやったものを持って行かれた経験があるからだ。 だから、いつまでも、同じ手でやられてたまるか、と気づくことができたのだ。 気づくことができたとしても、だから、適切に逆転の方策を取れるとは限らないが、ともかく、これは相手の誘導の可能性が高い・・・と気づくことができたのだ。 K保はなぜわからないのか? これもはっきりしている。 第1には、K下や私のような経験がないからだ。 そして、第2に、せっかく、経験のない人間のために協力してあげようという気持ちになっている人間の気持を平気で踏みつぶす人間だからだ。
    私は、一条工務店でも、「ある程度以上の成績」を継続的にあげたが、全国1位とかの成績は残していないが、同社でも他の会社においてでも全国1位くらいの成績を残した人でも、「経営者の好みのタイプ」とか「経営者の一族・エンコ」とかで条件の良い営業所にばかり配属させてもらってきたとかいう人は別にして、自分自身で努力して成果を上げてきた人なら、ここで私が述べた内容については、もっともなことだと理解されると思う。
    又、せっかく、同社でこういったことを学んだのだが、同社を辞めてしまったのでは、それは無駄になってしまうのではないかと思われる方もあるかもしれないが、こういったところで身に着いた「感覚」は、他の会社に勤めた場合でもなくなりはしない。 あれ? これは競合会社の営業の誘導ではないのか? 見込客の依頼とは言っても、実際は競合会社の営業の誘導によるものではないのか? と感じる危機察知能力とでもいったものは、たとえ、他の会社に勤めた場合、多少異なるタイプの商品を扱うことになった場合でも、その感覚は能力として残ると思う。 


    千葉市中央区鵜の森町 の新華ハウジング有限会社(建設業)・ビルダーズジャパン株式会社(不動産業)・ジャムズグローバルスクエア株式会社(不明業)で自称「工事責任者」をやっていた、ビルダーズジャパン株式会社では「取締役」になったU草A二(男。 当時、30代なかば)が、「ぼく、営業やったことないですけど、営業できますから」と厚かましいふてぶてしい文句を大きな声で何度も何度も口にしていたのだが、↑のような経験のない人間が、なぜ、できるのか、摩訶不思議である。  一条工務店の佐野営業所で新人のK保がわからず、「副所長」のK下や私が感じ取ったのは、過去に経験があるからで、それも、してやられた経験があるからだ。 経験のない人間がなぜできるのか。 なぜ、「ぼくやったことないですけど、できますもん」などと厚かましい文句を何度も何度も言うのか・・・・・。  実際のところ、一条の佐野営業所にいたK保ともども、このブタ、1回、フライングクロスチョップでもお見舞いしたろか! 人間ロケットでもお見舞いしたろか! という気になるのだが・・・・・
⇒「フライングクロスチョップ」「人間ロケット」を知らない方は、《YouTube―Mascaras Brothers》 https://www.youtube.com/watch?v=FtBntIZs-9c
  たとえ、フライングクロスチョップをお見舞いしてやっても・・・・、わからんだろうな。 わからんやつは。 人がせっかく、なんとか契約とらせてあげようとして指示してるのに、納得いかないならそれならそれで質問するということもせず、「副所長」に質問しにくいならそれならそれで他の先輩社員に質問するということもせずに勝手なことをするやつ、どう見ても「営業できていない」ところを相当に発揮しているのに、平気な顔で大きな声で何度も何度も「ぼく、営業やったことないですけど、営業できますから」とかぬかすブタ。 フライングクロスチョップくらいでは、わからんだろうな・・・・・・。
  もしも、わからせる方法があるとすれば。  やってみることだ、実際に。 実際にやれば、「ぼく、やったことないですけど、できますから」などという厚かましい文句は、幻覚だということがわかるはずだ。 一族・エンコの人が条件の良い場所に配属してもらってやる特別扱い営業ではだめですよ。 そうではなく、一般入社の人間と同じ条件でやってみることだ。 そうすれば、わかるようになる可能性が少しはあるかもしれない。


   元・阪急ブレーブス・投手・山田久志は『プロ野球 勝負強さの育て方』(1998.3.16.PHP文庫)に、1971年の日本シリーズの第3戦の9回、1点リードから巨人・王貞治に逆転サヨナラ3ランを打たれた時の経験を次のように書いている。
≪  昭和46年(1971年)10月15日、日本シリーズ第3戦、私が王さん(王貞治)に逆転サヨナラ3ランを打たれた日のことだ。
  ・・・1勝1敗で迎えた第3戦、9回裏まで、プロ3年目、23歳のペーペーにゼロ行進。 しかも、この23歳は第2戦に続き、移動日を挟んだだけで再び先発していたのだ。 巨人は私の若さに、完全に封じ込められていたのである。 ・・・・・
  私にとっては初めての日本シリーズだったが、不安というよりも“巨人がなんじゃい、東京がどないしたんや”という闘志むき出しの上京だった。
  2日前の西宮球場での第2戦。 当時の私にすれば、ちょっと油断したために完投を逃したが、とりあえず8対6で勝ち、勝利投手。 ところが、この試合でヨネさん(米田)を抑えに使ったため、ローテーションが狂った。・・・・
  そこで10月15日の第3戦の先発も私に回ってきたわけだが、・・・・
  9回2死1塁、長島さんにシュートを投げたが、にぶい当たりで二遊間を破られた。 天下の長島さんが、王さんにつなぐことだけを考えたヒットだったのだが、今思えば、ここらあたりが巨人の本当の底力なのだろう。
  場面は9回裏2死1、3塁、打者・王となった。 カウント1-1、捕手の岡村(浩二)さんのサインは内角低目、ストレート。 王さんの死角なのだから、私も文句なしだった。
  打たれた瞬間のことはスロービデオのようにしか思い出せない。 王さんが右足をググッと上げ、大地に突き刺さるように着地した。 次の瞬間、後戻りできない現実を私は必死になって否定しようとしていた。 打球は右翼方向に飛んでいった。 私の右ヒザから力が抜け、本当に「ガクッ」と音をたててマウンドとぶつかっていた。・・・
  結局、この1球が日本シリーズの分岐点になった。 阪急の若きエース・山田が、円熟期を迎えた巨人の主砲・王さんに打たれた。しかも、逆転サヨナラ3ランである。日本シリーズという短期決戦の中で、これは戦前有利と予想されていた阪急の初の日本一の可能性を吹き飛ばしてしまうものだった。・・・・・
  逆転サヨナラ3ランについては、いろいろと批評された。 戦略的には1点リードしていた9回裏2死1、3塁で4番打者。 決勝の走者を無条件で2塁に進めてしまうことになるが、敬遠ということも考えられる。 しかし、これについては何度も書くが、私は当時23歳と3か月のバリバリのエース。 つまり“王さんがなんじゃい”なのだから、頭の中には敬遠なんてこれっぽっちも浮かんでこなかった。
  技術的なことでは、カウント1-1から、王さんが最もニガ手とする内角低めで勝負したことである。 私は悪いボールではなかったと思っている。
  数日後、ヨネさん(米田哲也)が「ヤマ、打たれたボールというのは、やっぱり高いな」とアドバイスしてくれた。 私が思う限りでは、決して高くないのだが、狙ったところよりは2、3センチ高く入っている。
  ヨネさんの理論とは、もし、ヤマがあそこを狙っていたとすれば、そのボールは高くない。 しかし、あと2、3センチ下を狙って投げたボールだとすれば、投手にすればそれは高目に浮いたことになる。・・・
  原因は1-1から勝負したからだ。 内角低目を狙っていながら、私にはストライクゾーンより下のボールは見えていなかった。
  “この1球で決めてやる” “これでゲームセットだ”という勝負する気持ちが、私をストライクゾーンしか見えなくさせていたのだ。 ・・・・
   それともう1つ、・・・・
   名勝負の伏線は、8回にあった。 ・・・巨人の川上哲治監督は8回裏2死走者なしで、7番打者・土井(正三)さんのところで、代打に上田(武司)を送ってきた。 ・・・上田さんをこの日本シリーズでどう起用していくかを試すことが主眼なのだ。私は上田さんにヒットを打たれた。
   スコアブックを見ると、この上田さんを細心の注意を払って抑えておけば、9回、王さんに打席が回る可能性は極めて低かった。 しかも、リードはたったの1点である。 これは結果論ではなく、何しろ怖い者知らずだった私に怖い者がいっぱいいることを教えてくれた。
   勝負するのはストライクゾーンだけではない。 1点を守り抜くには1球たりとも気を抜いてはならぬ。
   294勝も勝つことができ、今では偉そうなことを言っているが、23歳と3か月で体験した王さんの1発が、すべての出発点となっている。・・・・・ ≫
≪  ・・・ムチャクチャに飲んだ。 帰りのタクシーに乗ると、腰が抜けるような感じになってシートに深く座った。・・・
「いやー、今日の日本シリーズはよかったネ。 お客さん、テレビ見たかい? 最高のゲームだったネ。 それにしても阪急の山田というピッチャー、なかなかイキのいいヤツだネェ」
運転手さんは巨人ファンだったのだろう。 うしろの座席に座っている私が阪急の山田であることを知らず、王さんの逆転サヨナラ3ランに酔っていた。
   たしかに、巨人ファンなら、だれかれなく話しかけたくなるゲームだったに違いない。・・・・
   気分よく話しかけてくる運転手さんに、私は車を降りる時、「ボクがホームランを打たれた山田です。 山田はボクです」と言ってやった。 運転手さんは言葉を失い、千鳥足の私をボウ然と見ているだけだった。・・・≫
≪ 今では“ オヤジ ”と呼ばせてもらっている西本幸雄さんをはじめ、先輩、ライバル、後輩・・・いつも私の周りには恩人がいた。 王さんもその中の1人だが、私の人生観・野球観を変えたという点では、質の違う恩人ではないかと思う。≫
   人はやられた経験から学ぶのだ。 経験のない人間にできてたまるか。

   
☆ 《 「やったことない」ことはできるか? 》シリーズは今後も続けます。

    (2015年3月24日) 

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