木造建築に際し機械プレカットは信用できるか―[1]寸法違いの丸太梁、ホゾ穴のない土台、鉋がけ不良の柱

[第426回]木造住宅建築に際し機械プレカットは信頼できるか及、「プレカット工場」を異常に信頼する男2例[1]  プレカット工場は信用できるか[1]
    かつては、在来木造の建物の「ホゾ」「ホゾ穴」、「継手(つぎて)」「仕口(しぐち)」といったものは、大工さんがノミで削って加工していたものですが、現在では、戸建住宅やアパートの建築においては、機械でプレカットして現場に運ぶ方が一般的となりました。
    念のため、建築初心者の方のために説明いたしますと、「ホゾ」「ホゾ穴」とは、柱を土台に建てる際に、柱の下につっこむための出っ張りがあり、これが「ホゾ」。 土台にはつっこまれるための穴をあけますが、これが「ホゾ穴」。 柱の上は梁・桁につっこむように出っ張りを作りますが、これも「ホゾ」。 柱のホゾをつっこまれるための梁・桁の穴が「ホゾ穴」です。 「継手(つぎて)」「仕口(しぐち)」とは、土台とか梁・桁を継ぐ箇所のことで、長い方向と長い方向を継ぐのが「継手(つぎて)」で、長い方向と短い方向を継ぐのが「仕口(しぐち)」です。 つっこむ側を「雄(オス)」、つっこまれる側を「雌(メス)」とも言いますが、考えてみると、これはあんまり上品な表現ではありませんね。 建築現場で男性同士で話をする際に言うのは別にいいのですが、住宅展示場に来られた女性の見込客から、「オス」とか「メス」とか言われると、どうも、話しにくくて困ります。
    1992年に在来木造の(株)一条工務店に入社した時、(株)一条工務店では、「プレカットをして建てています」というのを「売り」にしていたのですが、その頃は、在来木造の戸建住宅の建築会社では、機械プレカットで建てている会社と大工さんの手加工で建てていた会社と両方があり、(株)一条工務店では、プレカットで建てていて、かつ、「AQ認証」を受けた自社工場で加工しています、ということを「売り」にしていました。 同社では、工場見学会を実施して見込客を案内して、こういうところで加工して管理していますというものを見せて、契約につなげようということをやっていたのです。
    「プレカット」とは何かというと、「プレ」とは英語の接頭辞で「あらかじめ」「前もって」という意味で、「プレカット」は「あらかじめ、切る」という意味になります。 言葉の意味合いとしては、工事現場より前にあらかじめ切るという意味ですから、大工さんの下小屋でノミで削っても「あらかじめ切る」という意味にはあてはまるのですが、今現在、「プレカット」は「機械プレカット」、「工場で機械であらかじめ切る」ことを言っています。
    (株)一条工務店は、自社工場を持っていますというのを「売り」にしていたのですが、そうなると、小規模の工務店や個人大工さんは「機械プレカット」によって建てることはできないのか、というとそうではありません。材木加工業者で機械プレカットの工場を持っている所で加工してもらって、その材木を使って建てるということができます。

【1】 機械プレカット の「長所」と問題点
    機械プレカットの長所は何かというと、
(1) できばえにバラツキがない。 失敗がない。
(2) ノミによる手加工の場合、継手・仕口はまっすぐな角ばった形状にしか加工できないが、機械プレカットの場合は、曲線状の加工をすることができ、角ばった加工よりも曲線状の加工の方が強度が強い。
(3) 手加工よりも機械加工の方が加工に要する時間が短く、工期を短縮できる。
といったことを(株)一条工務店では言っていました。

  基本的には、それは間違いではありませんが、しかし、機械プレカットをすれば、まったく何の問題もないかというと、そうではない面もあります。
(ア) 寸法を間違えて加工された丸太梁(野物)
  「できばえにバラツキがない。 失敗がない」というのは、あくまでも、機械に適切な指示をした場合のことで、機械に指示をするのは人間であり、そこでミスがあれば、できばえにも失敗は出てきます。 現実に私が見たものでは、1992年、埼玉県川越市で建てていただいたお宅の上棟時において、建物の一番上の「野物(のもの)」(松丸太梁)が、本来よりも少しだけ長く加工されたものが現場に届けられていた。 もともと、大工さんが手加工により、鋸で切断し、ノミで加工していたものならば、短いものは長くしようがありませんが、長い物は加工し直すということも考えられます。 しかし、機械プレカットで加工しているものについては、工場で加工するものという前提で工事は進められています。 又、工場で機械で加工する場合、いわゆる、「野物(のもの)」という松の丸太梁は太いわ堅いわで、手加工で加工し直そうとしても簡単ではありません。 (株)一条工務店は、野物専用の加工機を機械の業者と共同で開発して持っているというのも「売り」にしていたのですが、そういうもので加工して工事現場に届けたというものを、いざ、上棟の時に入れようとすると、少しだけ本来の寸法よりも長く加工されていた、となると、さて、どうしたものか、という問題が出てくるのです。 で、その川越市の工事現場はどうしたか、というと、ほんの少しだけだったので・・・・→そのまま、入れちゃった! ・・え? いいの? と入社したばかりだった私は思いましたが、「いいんだよ、そんなの」と先輩社員が言うものですから、先輩社員がいいと言うからにはいいのか・・・どうかな・・・・と思いましたが、なんか、「入った」みたいです。

(イ)ホゾ穴のあけられていない土台
   さらに、2000年だったと思いますが、栃木県栃木市での上棟の時のことですが、土台に柱を立てようとすると、1箇所、柱にはホゾは加工されているのですが、土台に「ホゾ穴」が開けられていないという所があったのです。 そういう時、どうするべきだと思いますか?  1箇所だけなら、大工さんにノミでホゾ穴を作ってもらえばいいのではないか。 機械プレカットで効率アップしているとはいえ、まがりなりにも大工なら、ホゾ穴の1つくらい加工できますよね・・・・。 あまり何箇所もなら、大工の手間は加工はプレカット工場でやるという前提でのものですから、大工さんも、ノミで加工するのならその分も手間賃を出してくれという話になるかもしれませんが、1箇所なら、ノミで加工してくれたっていいのじゃないか・・・と思いません?  で、どうするのかと思っていたら、というと、他人事みたいな言い方じゃないかと思われる方もあるかもしれませんが、その工事現場の工事担当者がそこにおり、営業担当者も私ではなく別の人間がそこにおり、私はあくまでも「お手伝い」で行っていた現場で、営業担当者は年齢は私より若かったけれども、同社の在籍年数は私より長い人でしたから、その現場の工事担当・営業担当、その現場の担当大工を差し置いて私がどうこう言うものではないので、彼らがどう対処するか見ていたのです。 大工は、「ホゾを切り落とせ」と言いました。 え? と思いました。 だって、ホゾを切り落としてしまったら、柱はホゾなしで土台の上に乗ってるだけですし、その柱の根元には筋交いの下部がとりつくようになっています。筋交いに力が加わったら、ホゾのない柱は土台の上からはじき飛ばされるのではないか。 普通、ホゾのある柱と土台の間には、ホゾは上から下に加わる力の時はいいのですが、地震の縦揺れの際には、ホゾが抜けるような方向での力が加わることもありますから、そういったことを考えて、柱と土台の間に「三角プレート」をビスでとめて施工していました。 それを、普通は外側だけとりつけるものを、大工は「内側にもつけておけ」と言いました・・・・が、その現場の営業担当が、そこだけ内側にもつけると、施主からなんでそこだけ内側についているのかと不審に思われるので、内側につけなくていいと主張し、内側にはつけませんでした。 筋交いの下部がその柱の根元にとりつくということは、地震でその筋交いに力が加わった時、筋交いが柱を押してホゾのない柱が土台からはずれるという不安があります。 但し、「筋交いプレート」にはボックス型のものと平金物とがあったのですが、(株)一条工務店ではボックス型のものを使用していて、ボックス型の筋交いプレートにも、柱と土台、柱と梁の両側と筋交いをビスで取りつけるタイプのものと、柱の土台より少し上の部分に柱にだけと筋交いとをビスでとりつけるタイプのものがあり、(株)一条工務店は柱と土台、柱と梁の両方と筋交いとをビスでとりつけるタイプのものを使用していたので、筋交いプレートでも柱と土台を接合することにはなりました。 もしも、私がその工事現場の工事担当か営業担当であったならば、その工事現場の担当の大工さんに頭を下げて、「大工さん、余計な手間をかけさせて申し訳ないけれども、1箇所だけだから、ノミでホゾ穴を作ってもらえませんか」とお願いします。「大丈夫だよお」と言われても、「まあ、そう言わないで、お願いしますよ」と頼めば、1箇所だけならやってもらえるのではないかと思うのです。 それでもだめなら、この言い方はできるだけやりたくないのですが、「私もノミを持ってきていますが、私がホゾ穴を加工してもいいですか」とそこまで言えば、「わかったよ、しょうがねえなあ、まったく」とでも言って、やってくれるのではないかと思うのです。 大工だって、自分が担当する家は、いい家を作りたいという気持ちはあると思うのです。 いいかげんな施工をしたいなんて思ってないと思います。 その現場は私が営業担当ではない現場で、営業担当者は新人でもなくけっこう年数を経ている人で工事課の経験もある人であり、工事担当者も別にいましたから、その現場の工事担当と営業担当が何も言わないのに私が口出したのでは、また、営業本部長のA野さんから「余計なことするなあ」と怒られますから、せっかく会社の為を思って言って怒られたのではあほくさいですから、黙っていました。 でも、ホゾのない柱が立っているというのは、お施主さんは気づいていなかったようですが、気づいていないからいいと考えていいのかどうか・・・。 どうでしょうね。 こういう事態も、機械プレカットだから発生するわけで、機械プレカットなら、開いているべきホゾ穴が開いていないのはプレカット工場の責任であって大工が悪いのではないからホゾを切り落とせという話になるようですが、もともと、大工の手加工でやっておれば、開いているべきホゾ穴が開けられていないとなると、それは大工の責任ですから、ホゾを切り落としたなら、それも大工の責任になるので、ホゾ穴を開け直そうということになる可能性が高いのではないでしょうか。
   こういったケースを実際に見た上で考えると、「プレカットは手加工と違ってミスがない」というのは、あくまでも削る・切る際のことであって、切る・削る場所の指定、切る長さの指定を間違える可能性があるかどうかという点では、プレカットでもそれを指定するのは人間ですから、「手加工より間違いがない」ということはありません。
   私はそういったものを見てきましたし、見た時、これでいいのだろうかと考えてきましたが、見ても気づかない人、気づいてもなんとも思わない人もいたでしょう。何より、気づいたとして、それを言うと怒られる会社でしたから。会社のためを思って、改善した方がいいのではないかと思って言うと怒れるのです、(株)一条工務店は。1993年、名古屋の営業所長であった近藤ローオさんという方が、「一条工務店の工事現場を見に行って、よくない点があったら、見なかったことにする。他の会社の工事現場に行ったら、悪い所ばっかり見る。そうすると、一条工務店の建物はこのうえもなくすばらしい建物になる」と「研修」で指導していましたから。その話を聞かされた時は、恐ろしい会社だなあと思いました。こんな人が営業所長になっているのかとも思いました。
  1992年、(株)一条工務店の上棟工事に参加してみると、ヘルメットもかぶっていない人が多かったし、レッカー車の吊り荷の下には絶対に入ってはいけないと新帝国警備保障(株)での研修では教えられたし、交通誘導警備の仕事にアルバイトで行ったゼネコンの工事現場では「作業半径内立入禁止」と標識が貼られていましたし、朝礼で所長が「作業半径内には絶対に立ち入らないようにしてください」と確認していましたが(2014年、埼玉県の川口土木建築工業(株)http://www.kawado.co.jp/ の工事現場ではレッカー車の作業半径内どころか吊り荷の真下で作業させられましたが。そういう会社もあります)、(株)一条工務店では吊り荷の下にも平気で人が入っていたので、「大丈夫ですか、あれは」と言うと、「そんなの、だ~いじょお~ぶだよお~お。 建築現場で怪我するなんて当然のことじゃ~ん。怪我したらだめなんて言われたら、仕事なんてできねえよお~お」と一級建築士から言われました。いいのか、そんなことで? と思っていたら、1994年、福島県いわき市草木台の工事現場で、屋根屋が屋根から墜落して頭を打って死亡しました。O澄社長がいわき労働基準監督署から呼ばれて、労働基準監督官に「そんなの、工事現場で怪我したり死んだりするのなんて当然じゃ~ん」と言ったかというと、そういう相手には言わないらしく、社長が労基署から呼ばれると、「安全こそ、一条のポリシー」とそれまで言っていたことと正反対のことを突然言うようになりました。よく言うと思います。あきれました。そういう会社の体質は、プレカットで建てようがプレカットでない方法で建てようが、その体質は関係ないでしょうね。 

(ウ) 鉋掛けができていない役柱
   私が営業担当であった福島県いわき市小名浜の工事現場で、担当の大工さんと話をしていた時、「この柱、まったく、鉋がかかっていなかったんだよ。これは、俺がここでかけたんだよ」と言われたことがありました。 そして、他にもそういった柱があって、「これ、触ってみて」と言われ、その役柱(やくばしら)(真壁和室で柱が表に出てきて見える柱)をさわってみると、たしかに、まったく鉋掛けができていませんでした。
   (株)一条工務店では、「超仕上げ鉋板(ちょうしあげ かんなばん)」と命名した、鉋を移動させる手作業の鉋掛けとと逆に、柱の方を移動させて鉋掛けをする機械を工場に用意して、役柱の鉋掛けをやるようにしていたのです。 工場見学会では説明役のおにいちゃんが、「熟練の大工さんの作業を上回るできばえで、まったくのしろうとでも何の練習もしなくても簡単にできるんです」などと来客に説明していましたが、そうでもありません。
   第一に、「まったくのしろうとでも何の練習もしなくても簡単にできる」かというと、できるわけないでしょうが。実際に、それをやったことのある私が言うんです。 いいですか。 フォークリフトという機械は、レスラーとか相撲取りとかバーベル上げの選手とかよりも重いものを持ち上げることができます。 しかし、「しろうとでも簡単にできる」と思いますか? 私、東京都の山梨県よりの所で講習うけて、フォークリフト技能の資格をとりましたが、学科はともかく、実技試験は大変でした。 基本的には「とらせてあげようという試験」ではあるようですが、誰でも何の努力もしなくても「とらせてあげようという試験」ではなく、相当しごかれました。 「超仕上げ鉋板」にしても、経験のある人からやり方を教えてもらって、それを覚えてやってみて、できるようになるというもので、1週間くらいは試行錯誤してとまどいながらやるのです。「しろうとでも何の練習もしなくても簡単にできる」などというものではありません。 あくまでも、大工が鉋掛けを練習して薄く削れるようになるまで練習を重ねるというそこまでの熟練は必要ないということであって、「しろうとでも」「何の練習もしなくても」できるなどというのはウソです。
   そして、(株)一条工務店の工場では、「粗削り」を2回、「本削り」を1回かければ、鉋掛けが終了、ということになっていたのですが、「粗削り」2回、「本削り」1回かけたとして、それできっちりと鉋掛けができていなかったとしたらどうしますか? 大工が鉋掛けをする時は、「粗削り」2回、「本削り」1回と回数を決めて鉋掛けをしているのではなく、鉋掛けが十分にできたかどうかで判断しているのではありませんか?(「大工」と呼ぶに値するレベルに達していない「大七」か「大五」か「大三」みたいな人がどうかは知りませんよ。人材派遣業者で、ホームレスを集めてきて大工の格好をさせて、「大工さんいるよ」と言って派遣する会社があるという話も聞いたことがありますが、そういう「大工」がどうかは知りません。)  実際には、「超仕上げ鉋版」で「粗削り」を2回、「本削り」を1回かけたとしても、鉋掛けができたとはとても思えない状態の場合があるのです。 そういう場合、担当した人間の判断で、これではこのまま工事現場に出荷するわけにはいかないと考えて、さらにもう1回、「本削り」をする、それでもだめならもう1回、とやる人もいます。私はそうしました。 但し、(株)一条工務店は「今年の目標はコストダウンだ」とか言って、「速く、速く」とスピードばかりを工場の従業員に要求しますから、そうなると、あまりていねいにやってられなくなるのです。 給料も高くありませんし。
   もうひとつの問題は、外国人労働者を工場で使用していたという点です。 工場に長くいる人の話では、(株)一条工務店の工場では、ブラジル人、フィリピン人の出稼ぎの労働者を使っていたというのですが、そういった人は決して不真面目ではなく、体つきも工場で働く人として悪くない体つきをしていたそうなのですが、指示されたことは真面目にやってくれるが、日本の家がどうなっているかなんて知りませんから、「鉋かけ」とは何かもわからずにやっているわけで、「粗削り」2回、「本削り」1回と言われると、言われた通りやってくれるらしいのですが、それをやった結果として、きっちりと鉋がけができているかいないか判断してということはしないらしいのです。 その結果、工事現場には、工場見学会においては、説明役のおにいちゃんが「熟練の大工さんが仕上げた鉋掛けよりもはるかに上質の鉋掛けができるんです」とか言っていたものが、ちっとも鉋掛けができていない役柱が工事現場に届く、という結果になるようです。
   さらに、もう一つ。 「超仕上げ鉋板」の鉋の刃ですが、これを工場で研いでいたのではなく、「研ぎ(とぎ)」を外部に依頼していたのですが、どうも、研がれてきたという刃につけかえてみても、それでも、「本削り」がうまくいかない時があったのです。 研いだばかりという刃につけかえたのに、ですよ。 「熟練の大工さん」と違って、工場労働者である機械プレカット工場の従業員は、刃がきっちりと研がれているのか研がれていないのか判断できないのではないかと思うのです。 私はわかりませんでした。 私よりも工場の経験が長い人でわかる人もあるのかもしれないけれども、(株)一条工務店の工場というのは、大学や高校を卒業したばかりの人を工場に配属して4年目・5年目なら古い方で、他にパートタイマーの人、派遣労働者の人などがいたのですが、「熟練」というほど熟練の人はあまりいないし、会社が「速く、速く」とスピードばかりを要求する結果、そこにいると、だんだんと物事を考えなくなってしまい、できばえがいいか悪いかなど考えない頭になっていくように思いました。 「研いでもらった」という刃が、はたして本当にきっちりと研がれているものなのかどうか、そういう判断は、「しろうとでも何の練習もしなくても簡単にできる」というものではないと思うのです。 法隆寺宮大工棟梁の西岡常一さんの本などを読むと、「研ぐ」というのも大工の修行のひとつとして描かれているのですが、「研ぎ」を外部に依頼して、そして、その「研ぎ」の良し悪しを判断できる人間が工場にいない、というのは、機械プレカット工場の問題点かもしれません。


(エ) 上下逆の加工の梁
   在来木造の住宅建築業の会社では、梁桁材にムク材を使用している会社と集成材を使用している会社があり、(株)一条工務店では米松(ダグラスファー)のムク材を使用していました。 「地方」では、家というものは木造で建てるものだ、かつ、構造材はムクの木で建てるものだという意識・観念が強い地域が多く、(株)一条工務店は「地方」を中心に伸びてきた会社であることから、ムク材を使用していたと思われます。 都市部中心の会社は集成材の梁桁材を使用している会社が多いのではないでしょうか。
   ムク材と集成材では、集成材の方が、同じ量の丸太から材木として使用することができる量は多いので、材料費はかからないことになりますが、集成材は切って貼ってという作業が必要になり、その作業に手間がかかりますから、材木として使用できるところまでの費用はどちらが高いとはいちがいに言えません。 集成材の方が同じ量の丸太から多く使用することができるということで、「自然に優しい」かというと、集成材は接着剤で貼りつけて作りますから、廃材となって焼却しようということになった場合、集成材の方が焼却する際の条件は厳しくなり、そのあたりを考えると、必ずしも集成材の方が「自然に優しい」とも言えません。
   どの部材かによっても事情は違うのですが、梁(はり)・桁(けた)という横向きに使う木材の場合、集成材のムク材にない長所としては、
《1》 ムクの梁は厚みがある為、乾燥させるのが難しい。 それに対し、集成材は、薄い板の状態で乾燥させて、乾燥させてから貼り合わせることができるので、ムク材に比べて十分に乾燥させることがしやすい。
《2》 太い長い梁桁材に使用できる木材が手に入りにくくなってきた昨今においては、集成材は薄い板を張り合わせて、工業製品として太い長い集成材の梁桁材を作り出すことができる。
そして、
《3》 ムクの木材は、多かれ少なかれ「反る(そる)」、芯材側と辺材側では乾燥した時の収縮の度合いが違うので、ムクの梁は辺材側の方が大きく収縮し、芯材側の収縮の度合いは小さいので、芯材側が凸、辺材側が凹になるように曲がりやすい。 それに対して、集成材の梁桁材は、何枚かを重ねて貼り合わせるのですが、木の目が交互になるように貼り合わせるので、それぞれが反ろうとしても、互いにその力を打ち消しあって、ムク材に比べてはるかに反りにくい。
という点があります。
   しかし、この《3》についてですが、それなら、ムクの梁はだめなのかというと、そうでもありません。 法隆寺宮大工棟梁であった西岡常一さんの本を読むと「木は寸法で組まず、くせで組め」という法隆寺宮大工口伝があったそうですが、実際、木という素材はそれほどきちきちした素材ではなく、けっこう「大ざっぱ」な素材であり、いくらかは反ったり曲がったりするものであって、もともと、木造という構法は、そこで使用される木材は多少は反ったり曲がったりしながらも建物は維持されていくという性質の構法であったわけです。 特に、ムクの梁桁材の場合、芯材側と辺材側では辺材側の方が乾燥して収縮する度合いが大きいことから、辺材側を下、芯材側を上になるように梁桁材を加工すれば、下の方が収縮が大きく上側は収縮が小さいことから上に凸になるように曲がりやすいわけで、重力によって、梁の中央部が下に下がろうとする力と、さらに、梁の中央部に上階の柱が載っていたりするとそこで上から下への力が加わるわけですが、そういった梁を中央部で下に押し下げようする力が加わることを考えると、上に凸になるように収縮しやすいムク材の梁を使用した方が、いずれにも曲がりにくい集成材の梁を使用するよりも、むしろ、合理的とも言えるわけです。
画像

   ところが。 ここで、機械プレカットの問題点が出てくるのです。 大工が木を加工する場合、ともかく切ればいいわけではないのです。 大工というのは職人であり、単なる肉体労働者・労務者・人夫ではないはずなのです。(ときどき、単なる肉体労働者・人夫でしかないのではないかというような自称「大工」もいたりしますけれども。) ムクの梁を加工する際には、収縮した場合には上が凸になるように、辺材側を下、芯材側を上に加工するものです。 逆するバカは大工とは言えないはずです。 ところが、(株)一条工務店の建築現場には逆に加工された梁桁材が届くのです。私は、(株)一条工務店の工事現場で、その現場の担当の大工から、「なんで、これ、逆向きに加工するのか。工場で加工している人間、辺材側が下、芯材側が上というくらいわかっているだろうに」と言われたことが複数回あります。 なんで? なんでそんなことするの? と思いますよね。 特に、(株)一条工務店の工場見学会に行きますと、「一条のプレカット工場では、特に熟練の大工さんに工場に勤務してもらって、木取りをしてもらったりするようにしています」といったことを来客にマイク持って話しているのです。 企画室長のS木室長とかが。 「特に熟練の大工さん」に浜松や栃木・「西東京」(山梨県上野原市)などの工場につめてもらって全体を見てもらっているのなら、その「特に熟練で優秀な大工さん」というのは、なぜ、梁を上下、逆に加工するのか、上下、逆に加工するのを放置しているのか。 たまたま、何千件に1件のミスがそこで出たというのか。 それにしては頻度が多いのではないか。
   山梨県上野原市の工場を(株)一条工務店は「西東京工場」と名づけていましたが、東京都の西東京市にあるわけではなく、東京都の西部にあるわけでもない。きっちり山梨県にあります。 その上野原市の工場に行って、長く上野原市の工場に勤務してきた人に、この話をしてみたのです。 「へ~え。よく知ってるねえ」というのが最初の感想でした。 「そんなの、梁の上下をどう決めるかなんて、工場にいる人間で知ってる人間なんて、誰もいないよ」と。 それで、私は言ったのです。「熟練の大工さんが各工場にいて、全体を見ているのではないのですか」と。 「そんなもの、『熟練の大工さん』なんて、どの工場にも最初から一人もいないよ。そんなもの」というのが返事でした。 そして、上野原市の工場にも、「熟練の大工さん」なんて、そこにはいなかったのです。 やられた。ま~た、嘘つきやがった、嘘つき工務店!!! また、騙された。 
   ただ、「熟練の大工さん」でなかったとしても、「ムクの梁を加工するなら、芯材側を上、辺材側を下に加工する」ということくらいわかっていていいはずなのですが、ここで大きな問題として、大工さんが手加工で加工する場合は、加工するのは大工なのです。 大工というのは、単なる肉体労働者・人夫・労務者ではありません。単なる肉体労働者・人夫・労務者を「大工」とは言いません(最近、勝手に「大工」を名のっている「単なる肉体労働者」も時々いるようですが)。 大工(特別の名工かどうかはさておき、ムクの梁を加工する場合は、芯材側を上、辺材側を下に加工するものだというくらい理解できている人)ならやらないことを、「単なる工場労働者」である工場の従業員はやります。 だって、「そんなの、梁を加工する時に、どちらの側を上にするべきか下にするべきかなんて、(工場の従業員は誰も)そんなこと知らないもの」というのが現状です。 工事現場で家を建てる人間とそこで使用する材木を加工する人間が別の人間になり、加工する人間は「単なる工場労働者」になると、こういう事態が発生してくるのです。  ですから、機械プレカットをすれば、すべての面にわたって、手加工よりも正確なものができるのか、というと、そうとも言えない面もあるのです。

  次回、真っ二つに割れた梁、大黒柱に大きな節、他 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_8.html

   (2016.7.11.)

☆ 機械プレカット工場は信用できるか+プレカット工場を異常に信用する男2例
1.寸法違いの丸太梁、ホゾ穴のない土台、上下逆加工の梁、鉋掛けのできていない役柱 〔今回〕
2.真っ二つに割れた梁、玄関正面の大黒柱に大きな節。いいかげんそうなISO9001 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_8.html
3.公道を駐車場代わりに。ナンバー非取得のフォークリフトで公道走行、溝なしタイヤのフォークリフトにISO9001  https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_9.html
4.工場見学会の弊害。腰を痛める持ち方を要求。耐火材の鉱物繊維が剥落飛散 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_10.html
5.日本人労働者の労働条件を引き下げる「スト破り」外国人労働者、従業員元従業員をバカにする浜松市長、「資本の論理」 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_6.html
6.「打撃音から梁の強度を検査する機械」は有効か? 「カスケード」「セミカスケード」のはずが「セミカスケード」「コースト」。 ソロモンマホガニーは、実はマトア。 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_11.html
7.移動式棚の非常停止装置は実は止まらない。移動式棚を買うより地べたを買った方が・・。立地条件を考えない工場用地の選択。https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_12.html
8.工場に来て、ゴムまりでキャッチボールする「東京大学」学生と注意しない新人類教員による木材の乾燥状態の検査は役に立つか? ノミの使えない「大工」の出現 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_13.html
9.プレカット工場が大丈夫ですと言えば、逆向きの筋交いでも大丈夫か? 工事現場を見に行かない自称「工事責任者」(新華ハウジング) https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_14.html
10.在来木造の構造の基本を崩すことに理由を求めず、構造の基本について「絶対の証拠」を求める男。 「建築の美は構造の美」か「『こんなことする人あんまりないぞ』が『世界でただひとつの家』か」(フリーダムアーキテクツデザイン) https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201607article_15.html


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