内田康夫追悼【2/5】「巡査長」「部長刑事」「確保」とは。日本の警察は優秀か無能・有害か。警察対処法
[第600回]
5. 内田康夫は、警察について、ある程度以上知っている人であるとともに、空想・でまかせを書くのではなく、きっちりと調べて書こうという姿勢がある程度以上ある。〔「ある程度以上」という評価である理由は後で述べる。〕 内田康夫は、もともと、警察についてある程度知っている人だったのではないのかという印象を受けているのだが、小説を書く際に、もともと知っていたものだけではなく、実際にはありえない話を書くことはないように調べた上で書こうという姿勢があると思う。
(1)‐1 「巡査部長」と「刑事課長」の関係。「階級」と「役職」。「部長刑事」とは。 「巡査長」とは。
警察の組織がどうなっているかなんて、多くの人間は知らない。 『金沢殺人事件』では、
≪ 「部長」といっても、係長、課長、部長・・・・という職制の呼び名とは少し違う。『巡査部長』のことである。
一般人は警察の階級のこの部分が理解しにくい。早い話、「部長刑事」と「刑事部長」の違いがよく分からない。「部長刑事」の方が「刑事課長」より偉いと思っている人だって少なくないのである。≫
「部長刑事」というのは刑事課に所属の巡査部長の俗称で、「巡査部長」というのは警察官の「階級」であって役職とは別で、刑事課長と巡査部長の刑事とでは刑事課長の方が役職は上で、刑事課長というのは、たいてい、巡査部長よりも上の「階級」を持っているようだ。テレビの刑事ドラマでは「部長刑事」というと、テレビでは刑事ドラマのヒーローみたいに描かれているが、実際には「階級」としては「下から二番目」でしかなく、刑事課長の方が上である。
≪ 警察官の階級は、下から巡査、巡査部長、警部補、警部・・・と上がっていって、最後は警視監、警視総監となる。部長刑事というのは、刑事課に籍を置く巡査部長のことなので、つまり、下から二番目の階級だ。≫といったことが説明されている。 ≪ 原則として、巡査及び巡査長の階級の者は司法巡査、巡査部長以上の階級の者は司法警察員とされている。 ≫( 《ウィキペディア―司法巡査》https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E5%B7%A1%E6%9F%BB ) 「巡査部長」から上が「司法警察員」で、「巡査」(「巡査長」を含む)は「司法巡査」とされて区別される、ということだ。「巡査部長」というのは、「司法警察員」とされる者の中では最下位の「階級」である。「部長刑事」などというとエライさんみたいな名称だが威張ることはない・・・が、「善良な市民」はできるだけ関わらん方がいい。
≪ 定年まで、ついにヒラの巡査のまま――ということも、かつては少なくなかった。――・・・PTAだとか町の何かの集まりなどに出席した際、何も「長」がつかないと格好が悪い――という要望があって、警察は、本来はなかった階級名として「巡査長」というのをひねりだした。これは、昇級試験に関係なく、年功によって与えられるものである。 ・・・・≫
警察官が万引きやったとか盗撮やったとか強姦やったとかいった記事が出る際に、「巡査長」なんて名称がニュースに登場することがある。 しかし、本来、「巡査長」なんてないはずなのだ。警察官の「階級」では、「巡査」の上は「巡査部長」のはずなのだ。 「警察官の階級」は法律で規定されているものであり、法律で規定されているものである以上、法律によらずに警察が勝手にひねりだしていいというものではないと思えるのだが、法律で規定されている「階級」としては「巡査長」は「巡査」であって、法律で規定されている「階級」では「巡査」である者を「巡査」と「巡査部長」に分けたのだ、という言い訳で警察は切り抜けるつもりなのかもしれない・・・・が、違法であるかないか、けっこう微妙 ではないかと思う。
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警察法
(警察官の階級)
第62条 警察官(長官を除く。)の階級は、警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長及び巡査とする。
( 電子政府の総合窓口E―Gove 警察法 http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=329AC0000000162&openerCode=1 )
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内田康夫は、
≪ 下から二番目といっても、ばかにはできない。ことに、忙しい刑事にとっては、昇級試験の勉強もままならないのだから、一階級上がるだけでも、なかなか容易ではないのである。≫
と書いているが、刑事が忙しいかどうかはともかく、仮に忙しいとしても、それなら民間企業に勤めている人間は暇人なのかというとそうではない。 私は、(株)一条工務店http://www.ichijo.co.jp/ に勤めている時、営業本部長の天野隆夫からインテリアコーディネーターhttps://www.interior.or.jp/ic/ の資格をとってくれと言われて、片方で営業の仕事をこなしながら、忙しい生活の中から学習時間を盗み出して、大変な努力と工夫によって合格した。雇用能力開発機構(ポリテクセンター千葉)http://www3.jeed.or.jp/chiba/poly/ の「就職コンサルタント」が「インテリアコーディネーターなんて、誰でも通る」「インテリアコーディネーターなんて名前と受験番号さえ書けば誰でも間違いなく絶対に通る試験だ」などと発言したがそんな試験・資格ではない。そのおっさんは、「私は石原都知事の知り合いなんだけれども」ときかれもしないのに言っていたが、むしろ、雇用能力開発機構(現 高齢・障害・求職者雇用支援機構)の「就職コンサルタント」こそ、「石原慎太郎の知り合い」でさえあれば誰でもなれるのではないか。会社の上役からこういう資格をとってくれと言われても、きっちりと取得できる人間・きっちりと取得してみせる人間と取得できない人間がいる。世の中の会社には、勤務時間中に学習時間を与えてこの資格を取れという会社も中にはあるとか聞くが、私はそんなことをしてもらってインテリアコーディネーターの試験に通ったのではない。片方で営業の仕事をこなしながら、大変な思いをして、大変な努力と工夫をしてやっと通ったのだ。上役がとってくれと言った資格を、大変な努力と工夫をして取得した以上は、その資格を生かすような職種につかせるべきであるとともに、上役からこの資格をとってくれと言われて、片方で忙しい仕事をこなしながら他方で資格試験に合格してみせることができる人間というのは、その資格がどれだけ役立つかとは別に、それだけの精神面のある人間であるとして評価されていいはずである・・・が、(株)一条工務店はひとを馬鹿にした会社で、大変な思いをして上役が要求した資格を取得した人間にそれを生かす職種につかせることもなく、それだけではなく、総務部長の天野雅弘が「インテリアコーディネーターにしても、ぼくらは通らないのにおまえは通るじゃないか。ズルイ! と考えるのが当然だ」などと暴言をはいた。私は裏口で合格したのではないし、上役からとってくれと言われた資格を大変な思いをして取得して、なにゆえ、「ずるい」だのと言われなければならないのか。私は、相当忙しい仕事をしていても、それでも、インテリアコーディネーター他の資格試験に合格してみせた。旧型司法試験とか公認会計士試験とかいうならともかく、たかだか、巡査部長の試験にも通れない、というのは、それは「忙しい」からではないだろう。
どの業界においても言えることだが、勉強すること自体はいいことではあるが、昇進にこの資格が必要とかこの試験に通るのが必要という決まりを設けた場合、最低限、その試験に合格できる知識のある人間が昇進するというメリットもあるが、他方で、目の前の仕事を真面目にこなすよりも試験勉強を熱心にやる人間の方が昇進してしまう、ということになってしまう危険もある。(株)一条工務店では、「お客様アンケート」に「一条工務店の設計は、客の仕事よりも建築士の試験勉強の方を優先して不愉快だ」というものがあった。私は「一条工務店の設計」みたいに「客の仕事」をいいかげんにしてインテリアコーディネーターの資格試験に通ったのではない。入社以来、条件の悪い方の展示場に常に配属されてそういう場所で平均以上の成績を残しながらお客さんの仕事をきっちりとこなしながら、大変な努力と工夫をした上で通ったのである。内田康夫は≪忙しい刑事にとっては、昇級試験の勉強もままならないのだから、一階級上がるだけでも、なかなか容易ではないのである。≫などと書いているが、その解釈のしかたでは、試験に通った人間は「暇人みたい」で、それは違うのではないか。
2000年前後のこと、ラジオの野球中継を聞いていたところ、解説者の板東英二が「最近ねえ、『野球は頭でやるもんや』とか、ちょっと、そういうことを言いすぎですよ。 だいたいねえ、そんなもん、野球みたいなもん、やってる人間が、頭つかうのん、得意なわけないでしょうが。頭つかうのが嫌いやから野球みたいなもん、やっとんねんがな。頭つかうのん、得意やったら野球なんかやらんと、もっと、他の仕事やってるわ」と発言したことがあった・・・・が、巡査部長の試験にすら通らないというのは、それは忙しいからとか忙しくないからとかいう問題ではなく、「頭つかうのん嫌いやから警察みたいなもん、やっとんねんがな、頭つかうのん、得意やったら警察みたいなもんやらんと、もっと他の仕事やってるわ」というそっちと違うか? ・・と思ったのだが・・。
『歌枕殺人事件』では、
≪ 途中、何度か昇進のチャンスはあった。次の試験を前にして、内勤のほうに変わったらどうか――という上からの誘いもあった。刑事はやたらに多忙で、勉強の時間がないから、昇進試験には不利なのである。
「いえ、自分は刑事が好きでやっているのですから」
千田はそう言って断った。
折角の親切で言うのに――と、上司は心証を悪くしたにちがいない。そういうことも昇進の遅れに繋がったのかもしれない。
制度が改正され、刑事等、現場の煩務が多い職種にも昇進の道が開かれるそうだが、遅すぎた。・・・ ≫
という記述があるので、『金沢殺人事件』で≪忙しい刑事にとっては、昇級試験の勉強もままならないのだから≫とあるのは、他の職業に比べて忙しいかどうかということではなく、警察官の中で刑事は忙しい方の部署であるので、昇進のためには、その点で警察の他の部署と比べて刑事は不利だ、という意味か。
(1)‐2 「確保」とは。
『平家伝説殺人事件』では、
≪ 「『ドルチェ南青山』というマンションの住人から110番通報がありまして。現場近くにいたウチのPC(パトロールカー)が向かったのです。 通報の内容は、『若い女の人が、マンションに住む女性を刺殺したらしい』というもので、その女性は被害者の部屋のドアのところにぼんやり立っていたので、直ちに確保しました」
“確保”とは、警察用語で、身柄を拘束することをいう。 ・・・・≫
「逮捕」と「検挙」と「確保」はどう違うのかというと、「確保」というのは、逮捕でも検挙でもない。その人間が加害者なのか被害者なのか、どちらでもないのかまだわからないが、とりあえず、どこかに行かれてしまわないようにした、というものを警察は「確保」と言っているようだが、「巡査長」と一緒で、刑法とか刑事訴訟法とかにそういう用語があるわけではなく、警察が作ったというのか便宜上使用している警察の用語らしい。
「パトカー」ならたいていの人間はわかるが、「PC」なんて言われても、パソコンではなさそうだし、ぽんた カード(Ponta Card) でもなさそうだし〔⇒《ぽんたカードとは?―ローソン》http://www.lawson.co.jp/ponta/about/ponta/index.html 〕、何だろ? と思うが、パトカーのことを「PC」と言うというのも、「警察用語」なのだろう。 何の本だったか忘れたが・・・で見たが、警察用語でパトカーのことを「パンダ」とも言うらしい。 それにしても、なんとも、かわいくないパンダだこと・・・。
警察署に電話すると、「事件ですか、事故ですか」などと言う人がいるのだが、この言い方も警察官は慣れているかもしれないが、一般人は、いきなり、言われても意味がわかりにくい・・のだが、どうも、警察用語を一般人も知っているだろうと思いこんでいる警察官が多いような気がする。
≪ 「じつはですね、茂森聖の所在が分かりました」
「えっ、ほんとですか? やりましたねえ。警察の動きがこんなに早いとは思いませんでした。認識不足を改めなければいけない。それじゃ、すでに確保したのですね?」
確保とは、身柄の拘束を意味する。 ・・・・≫
( 内田康夫『黄金の石橋 新装版』2017.実業之日本社 ジョイノベルス)
要するに、法律用語ではなく警察が勝手に使用している用語で、「警察が日常的に使用する一般用語」として、「逮捕」でもなく「検挙」でもないが、ともかく、相手がどこかに行ってしまわないように、警察の管理下に置いたというのを「確保」と言っているようだ。もっとも、市民の側からすれば「確保」される筋合いがない場合でも警察は勝手に「確保」したりするわけであり、警察の下請けであったり同類であったりする検察・裁判所もまた同様の行為にでる可能性があると考えるべきであろう。
1990年代前半、霞ヶ関の法務省で仕事をしていたことがある・・・といっても、事務次官とか官房長とか刑事局長とかやっていたわけではない。 法務省の警備員の仕事をアルバイトでやったことがあったのだ。 その際、ある守衛さん(霞ヶ関の官庁では、公務員である「守衛」と警備会社の「警備員」との両方を雇い、公務員の「守衛」に主導権を持たせて、警備の仕事をさせていて、もしも、公務員の守衛が勤務過多であったりすると、人事院が、公務員にそんなに過酷な労働をさせてはいけません、過酷な労働は民間企業の人間にさせなさいと「人事院勧告」を出したわけだ。)に聞いた話なのだが、東京メトロ日比谷線「日比谷」駅で降りて、朝、合同庁舎6号館に向かって歩き出したところ、警察官が寄って来て、名前と生年月日を教えろと言ってきたという。特に、「生年月日を教えてもらえませんか」と言ってつきまとい、「そんなもの、教える必要ありませんよ」と言っても執拗につきまとってきたそうだ。なぜ、警察が生年月日を訊きたがるかというと、警察は「氏名と生年月日」か「氏名と住所」からその人間についての警察の「情報」をコンピュータから引き出すことだできるらしい。もっとも、「情報」を引き出すことができるとしても、その「情報」が正確であるかどうかは別問題である。私なんかもおそらく相当いいかげんな「情報」を入力されてしまっていることだろう。それで、生年月日を訊き出そうとしたらしい・・・・が、合同庁舎6号館の法務省の入口まで来て、たいていの職員は身分証明証を入口にいる警備員に提示して入るのだが、守衛で警備員とは顔なじみであることから、「おはようございます」と言って敬礼して顔パスで入るのを見て、その警察官は大慌てで逃げていきおった・・・そうだ。法務省のエライ人かと思ったらしい・・・・が、守衛さんなのだ。いわば、内田康夫の浅見光彦シリーズで、浅見光彦が警察庁刑事局長の浅見陽一郎の弟であると知って、警察の態度が突然変わるようなもの・・・かもしれない。 そのケースにしても、警察官につきまとわれた人の立場からすれば「ストーカー」であり「つきまとい行為」であるが、その警察官としては「確保」だったのかもしれない。
今は昔、1989年2月のこと、東京都目黒区の住居表示で言えば目黒区東山 付近、最寄駅は東急東横線の「中目黒」という場所で、朝、歩道を歩いていたところ、向こうから来た男に、いきなり、突き飛ばされた、ということがあった。 背の高さは私よりも高いという程度だったが、ものすごい力で、突然のことでびっくりもし、恐怖におびえたのだが(刑事などやっている人間には、身長はそれほど高いわけでもなく、見た目の体つきは普通のように見えても、力の入れ方を知っているのか体の大きさは大きくなくても腕力は強いのか、人を押したり突いたりする場合には相当の力である者が多い)、その男は警察官だったらしい。いきなり、無言で人を突き飛ばした後、「どこ、行くんじゃ、ごらあ!」と言って襲いかかってきたのだが、この話は[第107回]《日中、男性でも非常ベル携帯は必要かも~警察の恐怖(2)~東京都目黒区の警察、及、営業の安全》https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201206article_9.html で述べましたが、このケースにしても、私からすれば、「暴行を受けた」「暴漢に襲われた」というものですが、警察官だという相手の男からすれば「確保」だったのかもしれません。 「確保」とは便利な言葉です。
(1)‐3 「東京警視庁」「大阪警視庁」。
大阪は大阪府警、兵庫県は兵庫県警、北海道は北海道警。 『ルパン3世』の銭形警部が乗っているパトカーには「埼玉県警」と書いてある。 で、なぜか、東京都は「東京都警」では警視庁。 昔、警視庁と警察庁はどう違うのだろうと思ったことがあったが、警察庁は、戦前は内務省、戦後、私が若い頃は自治省、その後、総務省の外局として存在したが、警視庁は、東京都の警察という位置づけらしいのだが、「東京都警」ではなく「警視庁」。 名前が違うということは、大阪府警・京都府警は「府」の警察であっても、「県警」と特に違いはないのに対して、「警視庁」というのは単に東京都の警察というだけでなく、それ以外にも違いがあるのだろうか。
内田康夫の『津和野殺人事件』には、
≪ ・・・三人は言われるまま、部屋に入り、紀江の枕元近くに座った。
「今日は東京警視庁の方はお見えではないのですか」
紀江は遠山署長に訊いた。 『東京警視庁』というのは、大阪警視庁があった頃の古い言い方だ。 ≫
とある。
(1)-4 「LA」「LB」
≪ 「・・・九州管内での事件であれば、長期刑なら熊本刑務所。だいたい殺人犯の累犯がそれに当たりますがね。浅見さんはご存じかしらんけど、長期刑は『LA』と『LB』に区別されます。Lはロングで、初犯だと『A』、累犯だと『B』というわけですな。熊本刑務所は主に『LB』用で、九州には『LA』用はない。大分刑務所がたまに『LA』を受け入れる程度です。九州からいちばん近い『LA』は岡山でしたかな。その茂森っていうのが『LB』だと、数が少ないから簡単に割り出せるのだが」
・・・・ ≫
(2) 警察という所は秘密主義で、『美濃路殺人事件』には、浅見光彦は、そのに警部派出所に警察官は何人くらいいるのですか、と質問しただけで逮捕されかねない目付きで睨まれた、という記述があった。これなど、実際は架空の人間である浅見光彦が質問したのではなく、内田康夫が質問して、あやうく逮捕されそうになり、「兄上は警察庁刑事局長さま」という印籠ではなく、「有名人気推理作家」という肩書のおかげで助かった、ということでもあったのではないか。
≪ まったく警察の秘密主義というのは徹底しているのであって、警察署員の数などもなかなか教えてくれない。小さな町の警部派出所に、何人の警察官が詰めているかを訊いて、いまにも逮捕されかねないような目付きで睨まれた経験が、浅見にはある。どっちにしても三人か四人か、教えたってどうってことはなさそうだが、そういうのが警察の体質だと思えばまちがいない。・・・≫
もしかすると、≪小さな町の警部派出所に、何人の警察官が詰めているのかを訊いて、いまにも逮捕されかねない目付きで睨まれた経験が≫あるのは浅見ではなく内田康夫かも? しれない。
(3) 内田康夫は、警察に対して、まったく役に立たないと評価しているわけではなく、同時に、全面的に信頼できるなどとも認識していない。
『白鳥殺人事件』では、
≪ 石黒は顔をしかめ、喉の奥で笑った。
「・・・・だけどね浅見さんよ、仮にそういう方法があったとしたって、どうやってそのことを証明するつもりだ? そんなものは、あんたの空想――いや、妄想と言った方がいいかな・・・・とにかく、そう言って片づけてしまえば、何の役にも立たないじゃないか」
「さあ、はたしてそうでしょうか?」
浅見は子供っぽく、小首をかしげて、石黒の顔を眺めた。
「警察は推理力こそあなたに及びませんが、ビデオデッキとカメラを探し出すような、ごく機械的な作業は、鮮やかにやってのけるでしょうよ。・・・」 ≫ と。
『熊野古道殺人事件』では、
≪ 「・・・・そうだ、その前に聞いておきたいのだが、岳野氏の事件について、さっきのテレビニュースでは、自殺か病死か調べ中――みたいなことを言っていた。警察はどう判断したんだい?
「最初は病死と断定したようです。しかし、僕が指摘して、毒物の有無を再検査させたら、胃の中からアルカロイド系の毒物が検出されたのだそうです。 しかし、第三者によって毒物が投与された形跡もなければ、カプセルによって服用された痕跡もないので、結局、自殺だろうということで落ち着いたみたいですよ」
「ふーん、そうか、自殺ねえ・・・・」
「ええ、警察の目は節穴ですからね」
「ん? それはどういう意味だ?」
「決まっているじゃありませんか。 あの事件はれっきとした殺人事件ですよ。犯人は渡海船の中に缶コーヒーを置いて・・・・」
「・・・・・」
内田は驚きの表情を見せ、口を開きかけたが、反論も質問もしなかった。 ・・・・≫
このあたり、「日本の警察は優秀ですからね」と論拠もなく言いまくる『名探偵コナン』とは大きく違う。
『赤い雲殺人事件』では、
≪ 堀越は優秀な警察官に違いないのだが、思考パターンがいかにも教条主義的だという欠点がある。それは堀越にかぎらず、多くの警察官に共通して言えることなのだけれども、目に見える物しか見えない――いや、見ようとしない頑固さが、堀越にもあった。 そのくせ、妙な思いこみや先入観に囚われると、やたらと容疑者を連行、もしくは出頭させ、矛盾だらけの調書の作成に血道を上げたりするのだ。 ・・・・≫
『高千穂伝説殺人事件』では、
≪ (やれやれ――)と浅見は苦笑した。そういう固定観念や思いこみがあるから困るのだ。日本の警察はたしかに優秀だが、暴力事犯や単純な犯罪には対応できても、ちょっとした知能犯にかかると、手も足も出ない。毒入り菓子事件やロス疑惑なんかは、たまたま表面に出ているけれど、そんなのは氷山の一角で、実際には、警察のアンテナに引っ掛からずに深く潜行している犯罪は無数にあるにちがいない。推理小説の世界――などと笑っているようなことが、現実の事件として、いくらでも起こっているのだ。早い話、ロス疑惑事件などは、「素人」であるところの週刊誌がスッパ抜くまで、警察はそういう疑惑を抱(いだ)くことさえなかったではないか。かつての「首相の汚職事件」の時もそうだ。日本中に情報網を張りめぐらしている「専門家」の警察が、ほんのひと握りの「素人」集団に先を越されたケースは枚挙にいとまがない。≫
『ユタが愛した探偵』では、
≪ 「でも、言われてみると、確かに浅見さんみたいな考え方もできますね。警察に教えてあげましょうか」
「ははは、教えてやっても無駄ですよ。警察はもう自分たちの考えで固定しちゃってますから」
「そうなんですか」
湯本聡子はつまらなそうな顔になった。・・・≫
『平家伝説殺人事件』では、
≪ 通常、警察官に最も欠けているのは、柔軟性(フレキシビリティー)だといわれる。ことに、橋本のような老練にその弊が多く見られる。 ひとたび心に叩き込んだ事実認識を、新たな情勢の変化に対応して、つぎつぎに転換してゆく、などというのは、最も苦手とするところだ。 ・・・・≫
『「萩原朔太郎」の亡霊』では、
≪ 「どうですかねえ、そりぁ、警部さんのような立派な方が調べるのなら間違いはないでしょうけれど、中にはずいぶん強引な取調べをするお巡りさんもいるでしょうからねえ。 現に無実の罪に泣いた人も少なくないそうではありませんか」
「たしかに、おっしゃるとおり、・・・・・」
「しかしですよ。それは裏を返せば、証拠さえ揃っていれば、たとえ無実だとしても有罪にすることができるということでもあるわけでしょう。警察がその気になれば、容疑者に不利な証拠を作り出すことなど、わけないのじゃありませんか」
・・・・ ≫
『砂冥宮』には、
≪ 警官は真っ直ぐ浅見に向かってきて、「ちょっとあんた」と言った。
「すみませんが、ちょっといいですか?」
「ええ、どうぞ」
「ここではなんやし、ちょっと交番まで同行してもらいたいんやけど」
警察が頻発する「ちょっと」は便利な言葉だ。強要するようで、そうでもなく、時間的な長さや、拘束するのかしないのかも至極、あいまいなのである。 ・・・・
いずれにしても、抵抗すれば、公務執行妨害なんてことになりかねない。・・・・・≫
『汚れちまった道(上)』では、
≪ 「このホテルにお泊りですね?」
片桐が松田に行った。 分かりきったことを確かめるのが刑事の常套手段だ。 浅見に質問しないのは、すでにフロントで、松田が独り客であると聞いているのと、浅見を無視する意思を物語っている。≫
我が家にも、「ちょっといいですか」とインタホンで言った警察官がいたので、「何の御用ですか」と言ったところ、「ちょっと」と言って用件を言わないので、「『ちょっと』とは何ですか」と言ったところ、あくまでも「ちょっと」と言うので、「ですから、『ちょっと』とは何ですか」と言ったが、それでも返答しないので、用件を言わないようなヤツに出て行くほどバカでもお人よしでもないので、「私、留守番の者ですので、わかりません」と言ってやったところ、あきらめて帰った、ということがあり、そのままになっている。 無礼なヤツだと思う。 1980年代後半、小堀住研(株)の新卒社員研修の合宿研修の際、講師役のTQC推進本部営業部会課長のMさんが、「そういえば、昔、ぼくの営業課に配属になった新人で、けったいなヤツがおってな。 お客さんの家に行って、インタホンを押すと同時に隠れよるんや。 ぼくが、『おまえ、いったい、何やってんだ?』と言うと、『隠れてるんです』と言うんだけど、きみら、そういうおかしな真似は、絶対、するなよな」と言われたものだ。 押売り紛いのセールスで、そういうことをする人間がいるらしい。 1990年だったか、東京都大田区で、アパートの1階に住んでいた時、通路側の窓(格子つき)から、「すいませ~ん。このアパートに友達がいるはずなんですけど、どの部屋か捜してるんです。ちょっと、教えてもらえませんかあ」という男(20代と思われる)がいて、同じアパートの住人の知り合いなら顔を出さないわけにもいかないかと思ってドアを開けると、「よお~し。ここにハンコつけ」と言って「読売新聞」https://info.yomiuri.co.jp/index.html の契約書を目の前につきつけた、という男がいた。びっくりしたところ、「こらあ、さっさとしろお。俺がハンコついてくれと言って頼んでやってるんだぞお。さっさとハンコつけえ、こらあ。さっさとしろお、もたもたすんなあ! おい、わかってんのか、そこにいるうちの班長、入墨いれてんだぞ。警察に言っても、一晩とまればそれで終わりなんだからな。それで、もし、警察に言ったら、みんなで押しかけて、おまえ、半殺しにしてやるんだから、だから、警察なんて、言ってもどうもならないんだからな。わかったら、さっさとハンコつけえ! もたもたすんなあ、さっさとしろお!」と怒鳴りつけてきたということがあった。「読売新聞」というのはそういう新聞である。「読売新聞」はそういう「反社会的勢力」である。その読売の押売りの経験から、私は、それ以降、用件を言わないようなヤカラには出ないことにした。ところが、警察は「ご用は何ですか」と再三言っても、「ちょっと」と言うので、そういうヤカラは「善良な市民」として決して相手にしてはいけないと判断した。 1993年、(株)一条工務店http://www.ichijo.co.jp/ の松戸営業所で、営業本部長の天野隆夫が、入社1年目の営業に、「ぼくなら、お客さんの家に行ってインタホンを押したなら、すぐに隠れるな」と言うので、なんや、程度の低い男だなあとあきれたことがあった。 たしかに、インタホンが鳴ったが誰かわからないということで、ドアを開けて表に出てくるという人も世の中にはあるが、私なら、インタホンを押すだけ押して名のらないような人間に出て行くようなことはしない。 そういう小学生の子供のいたずらか読売の押売りか、もしくは、警察みたいなことするような不逞のヤカラに、忙しいのにわざわざ出て行くようなお人よしではないつもりだし、押売りはできるだけ前の段階で防いだ方がよろしい。 小堀住研(株)では、「カメラつきインタホンがある家やドアミラーがある家では、相手から最もよく見える位置に立ってこちらの姿をはっきりと見せる」と教えられた。「小堀住研の営業は押売りではありません。お客様のためになる営業をやっているのです。なんら、やましいところはないのですから、こちらの姿をはっきりと見せるようにしてください」と言われた。これは、小堀住研(株)でだけ通じるもので、他の住宅建築業の会社では異なるものかというとそうではなく、基本的にはどこでも通じる話であろう、と私は思ったのだが、(株)一条工務店では、営業本部長の天野隆夫が小学生のいたずらか読売の押売りか、もしくは警察か・・・みたいなことをやれと教えていたので、びっくりした、特に、全国に何人もの営業がおれば、中に変な人がいたとしてもありうることだとしても、たとえ、最終学歴は低い人であったとしても、それでも、営業本部長になっている人がそういうことを言うということに驚いた・・・ということがあったが、警察というのは、もし、やましいことをしているのでないのなら、「どういうご用ですか」と言ったのに対して、「ちょっと」などと言うのではなく、きっちりと用件を言うべきだと思うのだが、それを警察に期待するのは「八百屋で魚を求めるようなもの」かもしれない。
「ちょっと」とだけ言って用件を言わない無礼者には、「お帰りください」と丁重に退去を求め、それでも退去しない場合には、「不退去罪に該当すると判断されますが、110番通報させていただいてよろしいでしょうか」と言ってやりたいところだが、警察の場合は、もし、それで110番通報しても、その通報を受けた人間は、不退去罪の犯人の仲間であるので、仲間を守るために、即座に何人もでパトカーでかけつけて、襲いかかってくるということが考えられる。 それを考えると、警察官の行為が不退去罪に該当しても、法律は役に立たない。こと、対警察においては日本は法治国家とは言えない。
『金沢殺人事件』では、
≪ 玄関前に長い棒を持った巡査が立ち番をしていたが、浅見は構わず、建物の前の駐車スペースに車を置いて、署内に入った。
入った正面にある、カウンターのようなところにいた女子職員に、「捜査本部へ」と言うと、まもなく私服の刑事が現れた。
「捜査本部の者ですが、何か?」
浅見は名刺を出して、口から出任せを言った。
「北原千賀さんが殺された事件のことで、お話を聞かせていただきたいと思い、お邪魔しました。じつは、殺された北原さんとは、家がすぐ近くなのです。散歩の途中なんかで、ときどき会って、言葉を交わしていたものですから、他人事とは思えません」
名刺の住所はたしかに北原千賀のアパートの住所地に近い。しかし、刑事は胡散臭そうな目で浅見を見つめ、しばらく考えてから、言った。
「話と言われても、たいした話はないですが、それより、もしよければ、ちょっと事情を聞かせてもらえませんか」
「もしよければ」と、いかにも任意のように聞こえるが、断れば無理にでも――となることは見え透いている。 ・・・≫
『琵琶湖周航殺人歌』では、
≪ 「申し訳ないが、住所と名前、聞かせてもらえますか」
横沢はちっとも「申し訳なく」など思っていない口調で言った。≫
≪ 「面倒やから、ホテルの喫茶店で話を聞かしてもらいましょうか。コーヒー代ぐらいはおごりまっせ」
横沢は一方的に言って、また先に立って歩いて行く。こっちの都合などというものは、まるで意に介さないのだろう。・・≫
『伊香保殺人事件』では、
≪ 警察というところは、オズオズとしていると怪しまれるが、堂々としてさえいれば、誰も咎めだてしないものである。≫
というのもある・・・・が、行って楽しい所でもないと思う。
今は昔、1990年頃、東京都大田区のアパートに、読売新聞の押売りが来て、「さっさとハンコつけ、こらあ。もたもたすんなあ。もしも、警察に言っても、一晩泊まったらそれでおしまいなんだからな。それで、言いやがったヤツの所にみんなで押しかけて半殺しにするんだからな。わかったら、さっさとハンコつけ、こら。」と言ったことがあったのだが、たとえ、「一晩」でも泊まって楽しい所ではないように思うが。読売の押売りやってるようなそういうチンピラは、相手が警察官だとペコペコして一晩で出してもらえるようにするのかもしれないが、だからといって、絶対に一晩ですむという保証もないし。もし、今度、読売の押売りが押しかけて来て、「警察に言っても、一晩、泊まればそれでおしまいなんだからな」と言った時には、「一晩ですむのですか」とか、「たとえ、一晩でも、泊まって楽しい所ではないように思いますけれども」とか言ってやればいいのではないかと思ったのだが、その前に、警察と一緒で読売の押売りなんてのは関わらない方がいいだろう。
我が家の近所に、現役世代の人間に相手にしてほしいと思って、毎日のように市役所や電力会社・NTTなどに押しかけている前期高齢者のじいさんがいるのだが、警察署にも行ったことはあるらしいのだが、一度は言っても、その後、あまり行かないようだ。市役所とかNTTとかは、市民から何か言われた場合、対応しないといけないということになっているらしいので、近所の現役世代の人間は関わるのを嫌がって避けるのだが、市役所やNTTは避けてはならないことになっているらしい。また、市役所は営業のある会社ではないので、前期高齢者のじいさん(別名、「体だけ元気な年寄」)を相手して一日つぶしても、それでも、営業やっていけなくなるとかいう心配はないわけだ。 警察というのは、これは、行っても面白くないようで、前期高齢者のじいさん(「体だけ元気な年寄」)は行くのをやめてしまったようだ。 言っても面白くないとともに、へたすると公務執行妨害とか言い出す危険もあるわけで、さすがの前期高齢者も警察とは相性は良くないらしい。
佐賀潜の場合は元検事であるので、少し古いので今現在の制度と変わっている部分もあるかもしれないが、実際にありえないおとぎ話を書いているのではなく、ありうる話、もしくは、佐賀潜が検事として似た経験をしたのかもしれないと思われる話を書いているが、内田康夫のほかの多くの「推理小説作家」の作品には、警察・検察・裁判所・弁護士というものについて理解できておらず、理解できていないにもかかわらず、でまかせで、おとぎ話を書く人がいるのだが、内田康夫の作品はそうではなく、その小説自体はフィクションであっても、実際にその通りのことがあったとしてもおかしくないと思われる話が少なくない。
内田康夫の作品は現実に役立つものが少なくないと私は思う。 日本国民は、「善良な市民」は、内田康夫の作品を何点かは読んで、警察からの迫害にあらかじめ備えておくようにした方がいいと私は思う。
半分以上、笑い話みたいなものもある。 『佐渡伝説殺人事件』では、
≪ 次の瞬間、塚原は浅見めがけて頭から突進した。危うく身をひねったが、浅見は石に足を辷(すべ)らせて、尻餅をついた。その横を塚原は駆け抜けた。
「止まれ、止まらぬと撃つぞ!」
刑事が決まり文句を言った。そんな言葉で止まるはずはないと思うのだが――と、浅見は立ち上がりながら苦笑した。 ・・・≫
内田康夫は「警察⇒検察⇒裁判所」のうち、警察についてよく知っているようで、警察の醜い面も知っているようですが、好意的な面も感じられます。もしかして、浅見光彦のように「兄が警察庁刑事局長」であるのか・・・なんて思いそうになりますが、《ウィキペディア―内田康夫》https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%94%B0%E5%BA%B7%E5%A4%AB によると、≪父は長野県長野市出身の医師≫だそうで、「警察庁刑事局長」ではないらしい・・・が、
『琥珀の道(アンバーロード)殺人事件』では、
≪ 「松井田へ行って聞き込みをすれば分かるんじゃないかな」
脇から内田が助言した。
「それはそうですけど、刑事じゃないですから、無理ですよ」
「刑事と一緒に行けばいい。なんなら紹介してやってもいい」
「ほんとですか? そんなことできるのかなあ?」
「ばかにしてもらっちゃ困る、これでも警察に顔がきくんだ。それに、わが長野県警の諸君は勤勉だからね。事件の疑いがあれば、すぐに飛んでいく」
・・・
動機は不純でも、ともかく内田の紹介は効果があった。軽井沢署の石原という若い刑事が一人、同行してくれることになった。・・・≫
という場面があり、登場人物の「内田康夫」が自ら「これでも警察に顔がきくんだ」と言っている以上は、そうなのかもしれない。 『琥珀の道(アンバーロード)殺人事件』(角川文庫)所収の「あとがき―ぼくと浅見光彦」には、
≪ ぼくも警察とは親しく付き合っていますが、兄がエリート幹部にいるくらいですから、浅見はもちろん警察が好きです。しかし、交通違反やカラオケバーを取り締まりながら、右翼の傍若無人な行進を排除できない体質には憤慨しています。・・≫
と書かれていますので、それが良いか悪いかはさておき、そういう立ち位置の人だったのでしょう。
『熊野古道殺人事件』でも、
≪ 「あの、お客さまに駐在さんがお会いしたいと言って、みえてますけど」
「駐在? 警察ですか」
「はあ、ちょっとお話をお聞きしたいとか言うておられますけど、お連れしてもよろしいでしょうか?」
「ふーん、警察が何だろう?・・・・ しかしまあ、逃げ隠れするわけにはいかないでしょう。どうぞ連れてきてください」
内田は浅見を見てニヤリと笑った。
「警察に知り合いは多いけれど、この山奥まで来て、警察の人間と会うとは予想していなかったなあ」
「僕としては、なるべく、関わりあいにはなりたくないですね」・・・≫
と書かれているので、「内田康夫」は≪警察に知り合いは多い≫という人だったのでしょう・・・けれども、「なるべく、関わり合いになりたくない」と浅見光彦が発言するように、「一般市民」としての感覚も持ち合わせていたようです。
内田康夫が良心的だと思うのは、『名探偵コナン』では、コナン(工藤新一)であるとか、毛利探偵やその娘とか、警察シンパみたいな連中については、警察はどんな事件が発生して、その事件の周囲に登場しても、これらの人間は犯行とは無関係だと最初から勝手に決めてかかっているのに対し、内田康夫の小説では、たとえ、「兄が警察庁刑事局長」であっても、必ずしも事件と無関係と断定してもらえるというものではない、という点。
むしろ、『優しい殺人者』(『龍神の女(ひと)』祥伝社文庫 所収)では、警部の福原が指摘している。
≪ もうひとりの金沢昌夫は、まだ渡辺ほど追いつめられていないようだ。・・・・
「あの男には、到底、殺しなんかできそうにないと思います」
担当刑事はそう感想を述べている。例によって報告のあいだじゅう、ずっと寝そべっていた福原警部は、そのときだけ薄目を開けて、「あんた、そういう先入観はいけないよ」と言った。・・・≫
(2018.4.20.)
☆ 内田康夫 追悼
1.旅情と人間関係と推理、刑事をヒーロー扱いしない推理小説、実際にありそうな話 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_12.html
2.「巡査長」「部長刑事」「確保」とは。日本の警察は優秀か無能・有害か。対警察防衛。〔今回〕
3.警察がしかるべく仕事をするか?、刑事ヅラ、でっち上げ、誘導尋問、別件逮捕・・ https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_14.html
4.警察に情報提供すべきか?「第一発見者」の恐怖。「善良な市民」とは?https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_15.html
5.誰でも「心不全」「心身耗弱」。内田康夫の問題点。警察に甘い評価もある。 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_16.html
5. 内田康夫は、警察について、ある程度以上知っている人であるとともに、空想・でまかせを書くのではなく、きっちりと調べて書こうという姿勢がある程度以上ある。〔「ある程度以上」という評価である理由は後で述べる。〕 内田康夫は、もともと、警察についてある程度知っている人だったのではないのかという印象を受けているのだが、小説を書く際に、もともと知っていたものだけではなく、実際にはありえない話を書くことはないように調べた上で書こうという姿勢があると思う。
(1)‐1 「巡査部長」と「刑事課長」の関係。「階級」と「役職」。「部長刑事」とは。 「巡査長」とは。
警察の組織がどうなっているかなんて、多くの人間は知らない。 『金沢殺人事件』では、
≪ 「部長」といっても、係長、課長、部長・・・・という職制の呼び名とは少し違う。『巡査部長』のことである。
一般人は警察の階級のこの部分が理解しにくい。早い話、「部長刑事」と「刑事部長」の違いがよく分からない。「部長刑事」の方が「刑事課長」より偉いと思っている人だって少なくないのである。≫
「部長刑事」というのは刑事課に所属の巡査部長の俗称で、「巡査部長」というのは警察官の「階級」であって役職とは別で、刑事課長と巡査部長の刑事とでは刑事課長の方が役職は上で、刑事課長というのは、たいてい、巡査部長よりも上の「階級」を持っているようだ。テレビの刑事ドラマでは「部長刑事」というと、テレビでは刑事ドラマのヒーローみたいに描かれているが、実際には「階級」としては「下から二番目」でしかなく、刑事課長の方が上である。
≪ 警察官の階級は、下から巡査、巡査部長、警部補、警部・・・と上がっていって、最後は警視監、警視総監となる。部長刑事というのは、刑事課に籍を置く巡査部長のことなので、つまり、下から二番目の階級だ。≫といったことが説明されている。 ≪ 原則として、巡査及び巡査長の階級の者は司法巡査、巡査部長以上の階級の者は司法警察員とされている。 ≫( 《ウィキペディア―司法巡査》https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E5%B7%A1%E6%9F%BB ) 「巡査部長」から上が「司法警察員」で、「巡査」(「巡査長」を含む)は「司法巡査」とされて区別される、ということだ。「巡査部長」というのは、「司法警察員」とされる者の中では最下位の「階級」である。「部長刑事」などというとエライさんみたいな名称だが威張ることはない・・・が、「善良な市民」はできるだけ関わらん方がいい。
≪ 定年まで、ついにヒラの巡査のまま――ということも、かつては少なくなかった。――・・・PTAだとか町の何かの集まりなどに出席した際、何も「長」がつかないと格好が悪い――という要望があって、警察は、本来はなかった階級名として「巡査長」というのをひねりだした。これは、昇級試験に関係なく、年功によって与えられるものである。 ・・・・≫
警察官が万引きやったとか盗撮やったとか強姦やったとかいった記事が出る際に、「巡査長」なんて名称がニュースに登場することがある。 しかし、本来、「巡査長」なんてないはずなのだ。警察官の「階級」では、「巡査」の上は「巡査部長」のはずなのだ。 「警察官の階級」は法律で規定されているものであり、法律で規定されているものである以上、法律によらずに警察が勝手にひねりだしていいというものではないと思えるのだが、法律で規定されている「階級」としては「巡査長」は「巡査」であって、法律で規定されている「階級」では「巡査」である者を「巡査」と「巡査部長」に分けたのだ、という言い訳で警察は切り抜けるつもりなのかもしれない・・・・が、違法であるかないか、けっこう微妙 ではないかと思う。
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警察法
(警察官の階級)
第62条 警察官(長官を除く。)の階級は、警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長及び巡査とする。
( 電子政府の総合窓口E―Gove 警察法 http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=329AC0000000162&openerCode=1 )
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内田康夫は、
≪ 下から二番目といっても、ばかにはできない。ことに、忙しい刑事にとっては、昇級試験の勉強もままならないのだから、一階級上がるだけでも、なかなか容易ではないのである。≫
と書いているが、刑事が忙しいかどうかはともかく、仮に忙しいとしても、それなら民間企業に勤めている人間は暇人なのかというとそうではない。 私は、(株)一条工務店http://www.ichijo.co.jp/ に勤めている時、営業本部長の天野隆夫からインテリアコーディネーターhttps://www.interior.or.jp/ic/ の資格をとってくれと言われて、片方で営業の仕事をこなしながら、忙しい生活の中から学習時間を盗み出して、大変な努力と工夫によって合格した。雇用能力開発機構(ポリテクセンター千葉)http://www3.jeed.or.jp/chiba/poly/ の「就職コンサルタント」が「インテリアコーディネーターなんて、誰でも通る」「インテリアコーディネーターなんて名前と受験番号さえ書けば誰でも間違いなく絶対に通る試験だ」などと発言したがそんな試験・資格ではない。そのおっさんは、「私は石原都知事の知り合いなんだけれども」ときかれもしないのに言っていたが、むしろ、雇用能力開発機構(現 高齢・障害・求職者雇用支援機構)の「就職コンサルタント」こそ、「石原慎太郎の知り合い」でさえあれば誰でもなれるのではないか。会社の上役からこういう資格をとってくれと言われても、きっちりと取得できる人間・きっちりと取得してみせる人間と取得できない人間がいる。世の中の会社には、勤務時間中に学習時間を与えてこの資格を取れという会社も中にはあるとか聞くが、私はそんなことをしてもらってインテリアコーディネーターの試験に通ったのではない。片方で営業の仕事をこなしながら、大変な思いをして、大変な努力と工夫をしてやっと通ったのだ。上役がとってくれと言った資格を、大変な努力と工夫をして取得した以上は、その資格を生かすような職種につかせるべきであるとともに、上役からこの資格をとってくれと言われて、片方で忙しい仕事をこなしながら他方で資格試験に合格してみせることができる人間というのは、その資格がどれだけ役立つかとは別に、それだけの精神面のある人間であるとして評価されていいはずである・・・が、(株)一条工務店はひとを馬鹿にした会社で、大変な思いをして上役が要求した資格を取得した人間にそれを生かす職種につかせることもなく、それだけではなく、総務部長の天野雅弘が「インテリアコーディネーターにしても、ぼくらは通らないのにおまえは通るじゃないか。ズルイ! と考えるのが当然だ」などと暴言をはいた。私は裏口で合格したのではないし、上役からとってくれと言われた資格を大変な思いをして取得して、なにゆえ、「ずるい」だのと言われなければならないのか。私は、相当忙しい仕事をしていても、それでも、インテリアコーディネーター他の資格試験に合格してみせた。旧型司法試験とか公認会計士試験とかいうならともかく、たかだか、巡査部長の試験にも通れない、というのは、それは「忙しい」からではないだろう。
どの業界においても言えることだが、勉強すること自体はいいことではあるが、昇進にこの資格が必要とかこの試験に通るのが必要という決まりを設けた場合、最低限、その試験に合格できる知識のある人間が昇進するというメリットもあるが、他方で、目の前の仕事を真面目にこなすよりも試験勉強を熱心にやる人間の方が昇進してしまう、ということになってしまう危険もある。(株)一条工務店では、「お客様アンケート」に「一条工務店の設計は、客の仕事よりも建築士の試験勉強の方を優先して不愉快だ」というものがあった。私は「一条工務店の設計」みたいに「客の仕事」をいいかげんにしてインテリアコーディネーターの資格試験に通ったのではない。入社以来、条件の悪い方の展示場に常に配属されてそういう場所で平均以上の成績を残しながらお客さんの仕事をきっちりとこなしながら、大変な努力と工夫をした上で通ったのである。内田康夫は≪忙しい刑事にとっては、昇級試験の勉強もままならないのだから、一階級上がるだけでも、なかなか容易ではないのである。≫などと書いているが、その解釈のしかたでは、試験に通った人間は「暇人みたい」で、それは違うのではないか。
2000年前後のこと、ラジオの野球中継を聞いていたところ、解説者の板東英二が「最近ねえ、『野球は頭でやるもんや』とか、ちょっと、そういうことを言いすぎですよ。 だいたいねえ、そんなもん、野球みたいなもん、やってる人間が、頭つかうのん、得意なわけないでしょうが。頭つかうのが嫌いやから野球みたいなもん、やっとんねんがな。頭つかうのん、得意やったら野球なんかやらんと、もっと、他の仕事やってるわ」と発言したことがあった・・・・が、巡査部長の試験にすら通らないというのは、それは忙しいからとか忙しくないからとかいう問題ではなく、「頭つかうのん嫌いやから警察みたいなもん、やっとんねんがな、頭つかうのん、得意やったら警察みたいなもんやらんと、もっと他の仕事やってるわ」というそっちと違うか? ・・と思ったのだが・・。
『歌枕殺人事件』では、
≪ 途中、何度か昇進のチャンスはあった。次の試験を前にして、内勤のほうに変わったらどうか――という上からの誘いもあった。刑事はやたらに多忙で、勉強の時間がないから、昇進試験には不利なのである。
「いえ、自分は刑事が好きでやっているのですから」
千田はそう言って断った。
折角の親切で言うのに――と、上司は心証を悪くしたにちがいない。そういうことも昇進の遅れに繋がったのかもしれない。
制度が改正され、刑事等、現場の煩務が多い職種にも昇進の道が開かれるそうだが、遅すぎた。・・・ ≫
という記述があるので、『金沢殺人事件』で≪忙しい刑事にとっては、昇級試験の勉強もままならないのだから≫とあるのは、他の職業に比べて忙しいかどうかということではなく、警察官の中で刑事は忙しい方の部署であるので、昇進のためには、その点で警察の他の部署と比べて刑事は不利だ、という意味か。
(1)‐2 「確保」とは。
『平家伝説殺人事件』では、
≪ 「『ドルチェ南青山』というマンションの住人から110番通報がありまして。現場近くにいたウチのPC(パトロールカー)が向かったのです。 通報の内容は、『若い女の人が、マンションに住む女性を刺殺したらしい』というもので、その女性は被害者の部屋のドアのところにぼんやり立っていたので、直ちに確保しました」
“確保”とは、警察用語で、身柄を拘束することをいう。 ・・・・≫
「逮捕」と「検挙」と「確保」はどう違うのかというと、「確保」というのは、逮捕でも検挙でもない。その人間が加害者なのか被害者なのか、どちらでもないのかまだわからないが、とりあえず、どこかに行かれてしまわないようにした、というものを警察は「確保」と言っているようだが、「巡査長」と一緒で、刑法とか刑事訴訟法とかにそういう用語があるわけではなく、警察が作ったというのか便宜上使用している警察の用語らしい。
「パトカー」ならたいていの人間はわかるが、「PC」なんて言われても、パソコンではなさそうだし、ぽんた カード(Ponta Card) でもなさそうだし〔⇒《ぽんたカードとは?―ローソン》http://www.lawson.co.jp/ponta/about/ponta/index.html 〕、何だろ? と思うが、パトカーのことを「PC」と言うというのも、「警察用語」なのだろう。 何の本だったか忘れたが・・・で見たが、警察用語でパトカーのことを「パンダ」とも言うらしい。 それにしても、なんとも、かわいくないパンダだこと・・・。
警察署に電話すると、「事件ですか、事故ですか」などと言う人がいるのだが、この言い方も警察官は慣れているかもしれないが、一般人は、いきなり、言われても意味がわかりにくい・・のだが、どうも、警察用語を一般人も知っているだろうと思いこんでいる警察官が多いような気がする。
≪ 「じつはですね、茂森聖の所在が分かりました」
「えっ、ほんとですか? やりましたねえ。警察の動きがこんなに早いとは思いませんでした。認識不足を改めなければいけない。それじゃ、すでに確保したのですね?」
確保とは、身柄の拘束を意味する。 ・・・・≫
( 内田康夫『黄金の石橋 新装版』2017.実業之日本社 ジョイノベルス)
要するに、法律用語ではなく警察が勝手に使用している用語で、「警察が日常的に使用する一般用語」として、「逮捕」でもなく「検挙」でもないが、ともかく、相手がどこかに行ってしまわないように、警察の管理下に置いたというのを「確保」と言っているようだ。もっとも、市民の側からすれば「確保」される筋合いがない場合でも警察は勝手に「確保」したりするわけであり、警察の下請けであったり同類であったりする検察・裁判所もまた同様の行為にでる可能性があると考えるべきであろう。
1990年代前半、霞ヶ関の法務省で仕事をしていたことがある・・・といっても、事務次官とか官房長とか刑事局長とかやっていたわけではない。 法務省の警備員の仕事をアルバイトでやったことがあったのだ。 その際、ある守衛さん(霞ヶ関の官庁では、公務員である「守衛」と警備会社の「警備員」との両方を雇い、公務員の「守衛」に主導権を持たせて、警備の仕事をさせていて、もしも、公務員の守衛が勤務過多であったりすると、人事院が、公務員にそんなに過酷な労働をさせてはいけません、過酷な労働は民間企業の人間にさせなさいと「人事院勧告」を出したわけだ。)に聞いた話なのだが、東京メトロ日比谷線「日比谷」駅で降りて、朝、合同庁舎6号館に向かって歩き出したところ、警察官が寄って来て、名前と生年月日を教えろと言ってきたという。特に、「生年月日を教えてもらえませんか」と言ってつきまとい、「そんなもの、教える必要ありませんよ」と言っても執拗につきまとってきたそうだ。なぜ、警察が生年月日を訊きたがるかというと、警察は「氏名と生年月日」か「氏名と住所」からその人間についての警察の「情報」をコンピュータから引き出すことだできるらしい。もっとも、「情報」を引き出すことができるとしても、その「情報」が正確であるかどうかは別問題である。私なんかもおそらく相当いいかげんな「情報」を入力されてしまっていることだろう。それで、生年月日を訊き出そうとしたらしい・・・・が、合同庁舎6号館の法務省の入口まで来て、たいていの職員は身分証明証を入口にいる警備員に提示して入るのだが、守衛で警備員とは顔なじみであることから、「おはようございます」と言って敬礼して顔パスで入るのを見て、その警察官は大慌てで逃げていきおった・・・そうだ。法務省のエライ人かと思ったらしい・・・・が、守衛さんなのだ。いわば、内田康夫の浅見光彦シリーズで、浅見光彦が警察庁刑事局長の浅見陽一郎の弟であると知って、警察の態度が突然変わるようなもの・・・かもしれない。 そのケースにしても、警察官につきまとわれた人の立場からすれば「ストーカー」であり「つきまとい行為」であるが、その警察官としては「確保」だったのかもしれない。
今は昔、1989年2月のこと、東京都目黒区の住居表示で言えば目黒区東山 付近、最寄駅は東急東横線の「中目黒」という場所で、朝、歩道を歩いていたところ、向こうから来た男に、いきなり、突き飛ばされた、ということがあった。 背の高さは私よりも高いという程度だったが、ものすごい力で、突然のことでびっくりもし、恐怖におびえたのだが(刑事などやっている人間には、身長はそれほど高いわけでもなく、見た目の体つきは普通のように見えても、力の入れ方を知っているのか体の大きさは大きくなくても腕力は強いのか、人を押したり突いたりする場合には相当の力である者が多い)、その男は警察官だったらしい。いきなり、無言で人を突き飛ばした後、「どこ、行くんじゃ、ごらあ!」と言って襲いかかってきたのだが、この話は[第107回]《日中、男性でも非常ベル携帯は必要かも~警察の恐怖(2)~東京都目黒区の警察、及、営業の安全》https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201206article_9.html で述べましたが、このケースにしても、私からすれば、「暴行を受けた」「暴漢に襲われた」というものですが、警察官だという相手の男からすれば「確保」だったのかもしれません。 「確保」とは便利な言葉です。
(1)‐3 「東京警視庁」「大阪警視庁」。
大阪は大阪府警、兵庫県は兵庫県警、北海道は北海道警。 『ルパン3世』の銭形警部が乗っているパトカーには「埼玉県警」と書いてある。 で、なぜか、東京都は「東京都警」では警視庁。 昔、警視庁と警察庁はどう違うのだろうと思ったことがあったが、警察庁は、戦前は内務省、戦後、私が若い頃は自治省、その後、総務省の外局として存在したが、警視庁は、東京都の警察という位置づけらしいのだが、「東京都警」ではなく「警視庁」。 名前が違うということは、大阪府警・京都府警は「府」の警察であっても、「県警」と特に違いはないのに対して、「警視庁」というのは単に東京都の警察というだけでなく、それ以外にも違いがあるのだろうか。
内田康夫の『津和野殺人事件』には、
≪ ・・・三人は言われるまま、部屋に入り、紀江の枕元近くに座った。
「今日は東京警視庁の方はお見えではないのですか」
紀江は遠山署長に訊いた。 『東京警視庁』というのは、大阪警視庁があった頃の古い言い方だ。 ≫
とある。
(1)-4 「LA」「LB」
≪ 「・・・九州管内での事件であれば、長期刑なら熊本刑務所。だいたい殺人犯の累犯がそれに当たりますがね。浅見さんはご存じかしらんけど、長期刑は『LA』と『LB』に区別されます。Lはロングで、初犯だと『A』、累犯だと『B』というわけですな。熊本刑務所は主に『LB』用で、九州には『LA』用はない。大分刑務所がたまに『LA』を受け入れる程度です。九州からいちばん近い『LA』は岡山でしたかな。その茂森っていうのが『LB』だと、数が少ないから簡単に割り出せるのだが」
・・・・ ≫
(2) 警察という所は秘密主義で、『美濃路殺人事件』には、浅見光彦は、そのに警部派出所に警察官は何人くらいいるのですか、と質問しただけで逮捕されかねない目付きで睨まれた、という記述があった。これなど、実際は架空の人間である浅見光彦が質問したのではなく、内田康夫が質問して、あやうく逮捕されそうになり、「兄上は警察庁刑事局長さま」という印籠ではなく、「有名人気推理作家」という肩書のおかげで助かった、ということでもあったのではないか。
≪ まったく警察の秘密主義というのは徹底しているのであって、警察署員の数などもなかなか教えてくれない。小さな町の警部派出所に、何人の警察官が詰めているかを訊いて、いまにも逮捕されかねないような目付きで睨まれた経験が、浅見にはある。どっちにしても三人か四人か、教えたってどうってことはなさそうだが、そういうのが警察の体質だと思えばまちがいない。・・・≫
もしかすると、≪小さな町の警部派出所に、何人の警察官が詰めているのかを訊いて、いまにも逮捕されかねない目付きで睨まれた経験が≫あるのは浅見ではなく内田康夫かも? しれない。
(3) 内田康夫は、警察に対して、まったく役に立たないと評価しているわけではなく、同時に、全面的に信頼できるなどとも認識していない。
『白鳥殺人事件』では、
≪ 石黒は顔をしかめ、喉の奥で笑った。
「・・・・だけどね浅見さんよ、仮にそういう方法があったとしたって、どうやってそのことを証明するつもりだ? そんなものは、あんたの空想――いや、妄想と言った方がいいかな・・・・とにかく、そう言って片づけてしまえば、何の役にも立たないじゃないか」
「さあ、はたしてそうでしょうか?」
浅見は子供っぽく、小首をかしげて、石黒の顔を眺めた。
「警察は推理力こそあなたに及びませんが、ビデオデッキとカメラを探し出すような、ごく機械的な作業は、鮮やかにやってのけるでしょうよ。・・・」 ≫ と。
『熊野古道殺人事件』では、
≪ 「・・・・そうだ、その前に聞いておきたいのだが、岳野氏の事件について、さっきのテレビニュースでは、自殺か病死か調べ中――みたいなことを言っていた。警察はどう判断したんだい?
「最初は病死と断定したようです。しかし、僕が指摘して、毒物の有無を再検査させたら、胃の中からアルカロイド系の毒物が検出されたのだそうです。 しかし、第三者によって毒物が投与された形跡もなければ、カプセルによって服用された痕跡もないので、結局、自殺だろうということで落ち着いたみたいですよ」
「ふーん、そうか、自殺ねえ・・・・」
「ええ、警察の目は節穴ですからね」
「ん? それはどういう意味だ?」
「決まっているじゃありませんか。 あの事件はれっきとした殺人事件ですよ。犯人は渡海船の中に缶コーヒーを置いて・・・・」
「・・・・・」
内田は驚きの表情を見せ、口を開きかけたが、反論も質問もしなかった。 ・・・・≫
このあたり、「日本の警察は優秀ですからね」と論拠もなく言いまくる『名探偵コナン』とは大きく違う。
『赤い雲殺人事件』では、
≪ 堀越は優秀な警察官に違いないのだが、思考パターンがいかにも教条主義的だという欠点がある。それは堀越にかぎらず、多くの警察官に共通して言えることなのだけれども、目に見える物しか見えない――いや、見ようとしない頑固さが、堀越にもあった。 そのくせ、妙な思いこみや先入観に囚われると、やたらと容疑者を連行、もしくは出頭させ、矛盾だらけの調書の作成に血道を上げたりするのだ。 ・・・・≫
『高千穂伝説殺人事件』では、
≪ (やれやれ――)と浅見は苦笑した。そういう固定観念や思いこみがあるから困るのだ。日本の警察はたしかに優秀だが、暴力事犯や単純な犯罪には対応できても、ちょっとした知能犯にかかると、手も足も出ない。毒入り菓子事件やロス疑惑なんかは、たまたま表面に出ているけれど、そんなのは氷山の一角で、実際には、警察のアンテナに引っ掛からずに深く潜行している犯罪は無数にあるにちがいない。推理小説の世界――などと笑っているようなことが、現実の事件として、いくらでも起こっているのだ。早い話、ロス疑惑事件などは、「素人」であるところの週刊誌がスッパ抜くまで、警察はそういう疑惑を抱(いだ)くことさえなかったではないか。かつての「首相の汚職事件」の時もそうだ。日本中に情報網を張りめぐらしている「専門家」の警察が、ほんのひと握りの「素人」集団に先を越されたケースは枚挙にいとまがない。≫
『ユタが愛した探偵』では、
≪ 「でも、言われてみると、確かに浅見さんみたいな考え方もできますね。警察に教えてあげましょうか」
「ははは、教えてやっても無駄ですよ。警察はもう自分たちの考えで固定しちゃってますから」
「そうなんですか」
湯本聡子はつまらなそうな顔になった。・・・≫
『平家伝説殺人事件』では、
≪ 通常、警察官に最も欠けているのは、柔軟性(フレキシビリティー)だといわれる。ことに、橋本のような老練にその弊が多く見られる。 ひとたび心に叩き込んだ事実認識を、新たな情勢の変化に対応して、つぎつぎに転換してゆく、などというのは、最も苦手とするところだ。 ・・・・≫
『「萩原朔太郎」の亡霊』では、
≪ 「どうですかねえ、そりぁ、警部さんのような立派な方が調べるのなら間違いはないでしょうけれど、中にはずいぶん強引な取調べをするお巡りさんもいるでしょうからねえ。 現に無実の罪に泣いた人も少なくないそうではありませんか」
「たしかに、おっしゃるとおり、・・・・・」
「しかしですよ。それは裏を返せば、証拠さえ揃っていれば、たとえ無実だとしても有罪にすることができるということでもあるわけでしょう。警察がその気になれば、容疑者に不利な証拠を作り出すことなど、わけないのじゃありませんか」
・・・・ ≫
『砂冥宮』には、
≪ 警官は真っ直ぐ浅見に向かってきて、「ちょっとあんた」と言った。
「すみませんが、ちょっといいですか?」
「ええ、どうぞ」
「ここではなんやし、ちょっと交番まで同行してもらいたいんやけど」
警察が頻発する「ちょっと」は便利な言葉だ。強要するようで、そうでもなく、時間的な長さや、拘束するのかしないのかも至極、あいまいなのである。 ・・・・
いずれにしても、抵抗すれば、公務執行妨害なんてことになりかねない。・・・・・≫
『汚れちまった道(上)』では、
≪ 「このホテルにお泊りですね?」
片桐が松田に行った。 分かりきったことを確かめるのが刑事の常套手段だ。 浅見に質問しないのは、すでにフロントで、松田が独り客であると聞いているのと、浅見を無視する意思を物語っている。≫
我が家にも、「ちょっといいですか」とインタホンで言った警察官がいたので、「何の御用ですか」と言ったところ、「ちょっと」と言って用件を言わないので、「『ちょっと』とは何ですか」と言ったところ、あくまでも「ちょっと」と言うので、「ですから、『ちょっと』とは何ですか」と言ったが、それでも返答しないので、用件を言わないようなヤツに出て行くほどバカでもお人よしでもないので、「私、留守番の者ですので、わかりません」と言ってやったところ、あきらめて帰った、ということがあり、そのままになっている。 無礼なヤツだと思う。 1980年代後半、小堀住研(株)の新卒社員研修の合宿研修の際、講師役のTQC推進本部営業部会課長のMさんが、「そういえば、昔、ぼくの営業課に配属になった新人で、けったいなヤツがおってな。 お客さんの家に行って、インタホンを押すと同時に隠れよるんや。 ぼくが、『おまえ、いったい、何やってんだ?』と言うと、『隠れてるんです』と言うんだけど、きみら、そういうおかしな真似は、絶対、するなよな」と言われたものだ。 押売り紛いのセールスで、そういうことをする人間がいるらしい。 1990年だったか、東京都大田区で、アパートの1階に住んでいた時、通路側の窓(格子つき)から、「すいませ~ん。このアパートに友達がいるはずなんですけど、どの部屋か捜してるんです。ちょっと、教えてもらえませんかあ」という男(20代と思われる)がいて、同じアパートの住人の知り合いなら顔を出さないわけにもいかないかと思ってドアを開けると、「よお~し。ここにハンコつけ」と言って「読売新聞」https://info.yomiuri.co.jp/index.html の契約書を目の前につきつけた、という男がいた。びっくりしたところ、「こらあ、さっさとしろお。俺がハンコついてくれと言って頼んでやってるんだぞお。さっさとハンコつけえ、こらあ。さっさとしろお、もたもたすんなあ! おい、わかってんのか、そこにいるうちの班長、入墨いれてんだぞ。警察に言っても、一晩とまればそれで終わりなんだからな。それで、もし、警察に言ったら、みんなで押しかけて、おまえ、半殺しにしてやるんだから、だから、警察なんて、言ってもどうもならないんだからな。わかったら、さっさとハンコつけえ! もたもたすんなあ、さっさとしろお!」と怒鳴りつけてきたということがあった。「読売新聞」というのはそういう新聞である。「読売新聞」はそういう「反社会的勢力」である。その読売の押売りの経験から、私は、それ以降、用件を言わないようなヤカラには出ないことにした。ところが、警察は「ご用は何ですか」と再三言っても、「ちょっと」と言うので、そういうヤカラは「善良な市民」として決して相手にしてはいけないと判断した。 1993年、(株)一条工務店http://www.ichijo.co.jp/ の松戸営業所で、営業本部長の天野隆夫が、入社1年目の営業に、「ぼくなら、お客さんの家に行ってインタホンを押したなら、すぐに隠れるな」と言うので、なんや、程度の低い男だなあとあきれたことがあった。 たしかに、インタホンが鳴ったが誰かわからないということで、ドアを開けて表に出てくるという人も世の中にはあるが、私なら、インタホンを押すだけ押して名のらないような人間に出て行くようなことはしない。 そういう小学生の子供のいたずらか読売の押売りか、もしくは、警察みたいなことするような不逞のヤカラに、忙しいのにわざわざ出て行くようなお人よしではないつもりだし、押売りはできるだけ前の段階で防いだ方がよろしい。 小堀住研(株)では、「カメラつきインタホンがある家やドアミラーがある家では、相手から最もよく見える位置に立ってこちらの姿をはっきりと見せる」と教えられた。「小堀住研の営業は押売りではありません。お客様のためになる営業をやっているのです。なんら、やましいところはないのですから、こちらの姿をはっきりと見せるようにしてください」と言われた。これは、小堀住研(株)でだけ通じるもので、他の住宅建築業の会社では異なるものかというとそうではなく、基本的にはどこでも通じる話であろう、と私は思ったのだが、(株)一条工務店では、営業本部長の天野隆夫が小学生のいたずらか読売の押売りか、もしくは警察か・・・みたいなことをやれと教えていたので、びっくりした、特に、全国に何人もの営業がおれば、中に変な人がいたとしてもありうることだとしても、たとえ、最終学歴は低い人であったとしても、それでも、営業本部長になっている人がそういうことを言うということに驚いた・・・ということがあったが、警察というのは、もし、やましいことをしているのでないのなら、「どういうご用ですか」と言ったのに対して、「ちょっと」などと言うのではなく、きっちりと用件を言うべきだと思うのだが、それを警察に期待するのは「八百屋で魚を求めるようなもの」かもしれない。
「ちょっと」とだけ言って用件を言わない無礼者には、「お帰りください」と丁重に退去を求め、それでも退去しない場合には、「不退去罪に該当すると判断されますが、110番通報させていただいてよろしいでしょうか」と言ってやりたいところだが、警察の場合は、もし、それで110番通報しても、その通報を受けた人間は、不退去罪の犯人の仲間であるので、仲間を守るために、即座に何人もでパトカーでかけつけて、襲いかかってくるということが考えられる。 それを考えると、警察官の行為が不退去罪に該当しても、法律は役に立たない。こと、対警察においては日本は法治国家とは言えない。
『金沢殺人事件』では、
≪ 玄関前に長い棒を持った巡査が立ち番をしていたが、浅見は構わず、建物の前の駐車スペースに車を置いて、署内に入った。
入った正面にある、カウンターのようなところにいた女子職員に、「捜査本部へ」と言うと、まもなく私服の刑事が現れた。
「捜査本部の者ですが、何か?」
浅見は名刺を出して、口から出任せを言った。
「北原千賀さんが殺された事件のことで、お話を聞かせていただきたいと思い、お邪魔しました。じつは、殺された北原さんとは、家がすぐ近くなのです。散歩の途中なんかで、ときどき会って、言葉を交わしていたものですから、他人事とは思えません」
名刺の住所はたしかに北原千賀のアパートの住所地に近い。しかし、刑事は胡散臭そうな目で浅見を見つめ、しばらく考えてから、言った。
「話と言われても、たいした話はないですが、それより、もしよければ、ちょっと事情を聞かせてもらえませんか」
「もしよければ」と、いかにも任意のように聞こえるが、断れば無理にでも――となることは見え透いている。 ・・・≫
『琵琶湖周航殺人歌』では、
≪ 「申し訳ないが、住所と名前、聞かせてもらえますか」
横沢はちっとも「申し訳なく」など思っていない口調で言った。≫
≪ 「面倒やから、ホテルの喫茶店で話を聞かしてもらいましょうか。コーヒー代ぐらいはおごりまっせ」
横沢は一方的に言って、また先に立って歩いて行く。こっちの都合などというものは、まるで意に介さないのだろう。・・≫
『伊香保殺人事件』では、
≪ 警察というところは、オズオズとしていると怪しまれるが、堂々としてさえいれば、誰も咎めだてしないものである。≫
というのもある・・・・が、行って楽しい所でもないと思う。
今は昔、1990年頃、東京都大田区のアパートに、読売新聞の押売りが来て、「さっさとハンコつけ、こらあ。もたもたすんなあ。もしも、警察に言っても、一晩泊まったらそれでおしまいなんだからな。それで、言いやがったヤツの所にみんなで押しかけて半殺しにするんだからな。わかったら、さっさとハンコつけ、こら。」と言ったことがあったのだが、たとえ、「一晩」でも泊まって楽しい所ではないように思うが。読売の押売りやってるようなそういうチンピラは、相手が警察官だとペコペコして一晩で出してもらえるようにするのかもしれないが、だからといって、絶対に一晩ですむという保証もないし。もし、今度、読売の押売りが押しかけて来て、「警察に言っても、一晩、泊まればそれでおしまいなんだからな」と言った時には、「一晩ですむのですか」とか、「たとえ、一晩でも、泊まって楽しい所ではないように思いますけれども」とか言ってやればいいのではないかと思ったのだが、その前に、警察と一緒で読売の押売りなんてのは関わらない方がいいだろう。
我が家の近所に、現役世代の人間に相手にしてほしいと思って、毎日のように市役所や電力会社・NTTなどに押しかけている前期高齢者のじいさんがいるのだが、警察署にも行ったことはあるらしいのだが、一度は言っても、その後、あまり行かないようだ。市役所とかNTTとかは、市民から何か言われた場合、対応しないといけないということになっているらしいので、近所の現役世代の人間は関わるのを嫌がって避けるのだが、市役所やNTTは避けてはならないことになっているらしい。また、市役所は営業のある会社ではないので、前期高齢者のじいさん(別名、「体だけ元気な年寄」)を相手して一日つぶしても、それでも、営業やっていけなくなるとかいう心配はないわけだ。 警察というのは、これは、行っても面白くないようで、前期高齢者のじいさん(「体だけ元気な年寄」)は行くのをやめてしまったようだ。 言っても面白くないとともに、へたすると公務執行妨害とか言い出す危険もあるわけで、さすがの前期高齢者も警察とは相性は良くないらしい。
佐賀潜の場合は元検事であるので、少し古いので今現在の制度と変わっている部分もあるかもしれないが、実際にありえないおとぎ話を書いているのではなく、ありうる話、もしくは、佐賀潜が検事として似た経験をしたのかもしれないと思われる話を書いているが、内田康夫のほかの多くの「推理小説作家」の作品には、警察・検察・裁判所・弁護士というものについて理解できておらず、理解できていないにもかかわらず、でまかせで、おとぎ話を書く人がいるのだが、内田康夫の作品はそうではなく、その小説自体はフィクションであっても、実際にその通りのことがあったとしてもおかしくないと思われる話が少なくない。
内田康夫の作品は現実に役立つものが少なくないと私は思う。 日本国民は、「善良な市民」は、内田康夫の作品を何点かは読んで、警察からの迫害にあらかじめ備えておくようにした方がいいと私は思う。
半分以上、笑い話みたいなものもある。 『佐渡伝説殺人事件』では、
≪ 次の瞬間、塚原は浅見めがけて頭から突進した。危うく身をひねったが、浅見は石に足を辷(すべ)らせて、尻餅をついた。その横を塚原は駆け抜けた。
「止まれ、止まらぬと撃つぞ!」
刑事が決まり文句を言った。そんな言葉で止まるはずはないと思うのだが――と、浅見は立ち上がりながら苦笑した。 ・・・≫
内田康夫は「警察⇒検察⇒裁判所」のうち、警察についてよく知っているようで、警察の醜い面も知っているようですが、好意的な面も感じられます。もしかして、浅見光彦のように「兄が警察庁刑事局長」であるのか・・・なんて思いそうになりますが、《ウィキペディア―内田康夫》https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%94%B0%E5%BA%B7%E5%A4%AB によると、≪父は長野県長野市出身の医師≫だそうで、「警察庁刑事局長」ではないらしい・・・が、
『琥珀の道(アンバーロード)殺人事件』では、
≪ 「松井田へ行って聞き込みをすれば分かるんじゃないかな」
脇から内田が助言した。
「それはそうですけど、刑事じゃないですから、無理ですよ」
「刑事と一緒に行けばいい。なんなら紹介してやってもいい」
「ほんとですか? そんなことできるのかなあ?」
「ばかにしてもらっちゃ困る、これでも警察に顔がきくんだ。それに、わが長野県警の諸君は勤勉だからね。事件の疑いがあれば、すぐに飛んでいく」
・・・
動機は不純でも、ともかく内田の紹介は効果があった。軽井沢署の石原という若い刑事が一人、同行してくれることになった。・・・≫
という場面があり、登場人物の「内田康夫」が自ら「これでも警察に顔がきくんだ」と言っている以上は、そうなのかもしれない。 『琥珀の道(アンバーロード)殺人事件』(角川文庫)所収の「あとがき―ぼくと浅見光彦」には、
≪ ぼくも警察とは親しく付き合っていますが、兄がエリート幹部にいるくらいですから、浅見はもちろん警察が好きです。しかし、交通違反やカラオケバーを取り締まりながら、右翼の傍若無人な行進を排除できない体質には憤慨しています。・・≫
と書かれていますので、それが良いか悪いかはさておき、そういう立ち位置の人だったのでしょう。
『熊野古道殺人事件』でも、
≪ 「あの、お客さまに駐在さんがお会いしたいと言って、みえてますけど」
「駐在? 警察ですか」
「はあ、ちょっとお話をお聞きしたいとか言うておられますけど、お連れしてもよろしいでしょうか?」
「ふーん、警察が何だろう?・・・・ しかしまあ、逃げ隠れするわけにはいかないでしょう。どうぞ連れてきてください」
内田は浅見を見てニヤリと笑った。
「警察に知り合いは多いけれど、この山奥まで来て、警察の人間と会うとは予想していなかったなあ」
「僕としては、なるべく、関わりあいにはなりたくないですね」・・・≫
と書かれているので、「内田康夫」は≪警察に知り合いは多い≫という人だったのでしょう・・・けれども、「なるべく、関わり合いになりたくない」と浅見光彦が発言するように、「一般市民」としての感覚も持ち合わせていたようです。
内田康夫が良心的だと思うのは、『名探偵コナン』では、コナン(工藤新一)であるとか、毛利探偵やその娘とか、警察シンパみたいな連中については、警察はどんな事件が発生して、その事件の周囲に登場しても、これらの人間は犯行とは無関係だと最初から勝手に決めてかかっているのに対し、内田康夫の小説では、たとえ、「兄が警察庁刑事局長」であっても、必ずしも事件と無関係と断定してもらえるというものではない、という点。
むしろ、『優しい殺人者』(『龍神の女(ひと)』祥伝社文庫 所収)では、警部の福原が指摘している。
≪ もうひとりの金沢昌夫は、まだ渡辺ほど追いつめられていないようだ。・・・・
「あの男には、到底、殺しなんかできそうにないと思います」
担当刑事はそう感想を述べている。例によって報告のあいだじゅう、ずっと寝そべっていた福原警部は、そのときだけ薄目を開けて、「あんた、そういう先入観はいけないよ」と言った。・・・≫
(2018.4.20.)
☆ 内田康夫 追悼
1.旅情と人間関係と推理、刑事をヒーロー扱いしない推理小説、実際にありそうな話 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_12.html
2.「巡査長」「部長刑事」「確保」とは。日本の警察は優秀か無能・有害か。対警察防衛。〔今回〕
3.警察がしかるべく仕事をするか?、刑事ヅラ、でっち上げ、誘導尋問、別件逮捕・・ https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_14.html
4.警察に情報提供すべきか?「第一発見者」の恐怖。「善良な市民」とは?https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_15.html
5.誰でも「心不全」「心身耗弱」。内田康夫の問題点。警察に甘い評価もある。 https://sinharagutoku2212.seesaa.net/article/201804article_16.html
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